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10年後のアタシに言う。
花を咲かせるんだ。きっと。
病院の個室のベッドで手術後の身体を横たえながら、今、自分の過去が走馬灯のように脳裏を流れていく。
10年前、まだ中学に入ったばかりの頃、僕は同級生の勧めで無理矢理サッカー部に入部させられた。
でも、身体を動かすことはキライじゃなかったんだ。
縄跳びや鉄棒くらいだったら。
でも、サッカー部の毎日の練習は辛かった。
そして、雨の日も泥にまみれて、闘争心剥き出しで、がむしゃらにプレーをする友人の姿を見ながら僕は派手に転倒し、「ああ!これは自分がやりたい世界じゃない!」そう思ったんだ。
サッカー部を退部した後の、僕の中学生時代は辛かった。
前から興味のあった手芸部に入ったことで男友達からは馬鹿にされた。
同じ部の女子からは少し距離を置かれていた。
そして───僕は、いつのまにか孤立していった。
高校時代も同じ、そして高卒で工場に就職。
耐えきれず半年で辞めた。
そのあとは、一念発起して、東京に出てバイトを始め、いつの間にか夜の繁華街でホストの仕事をしていた。
そして、今、僕、いえ、アタシは病院の個室のベッドに横たわっている。
後、小一時間もすれば麻酔が切れて激痛が襲ってくると主治医には言われている。
でも、それに耐える心の準備はできている。
「いつでも来い!耐えてみせる!」
今までの人生の理不尽にずっと耐えてきたのだから、
そんな痛みに耐えられないはずがない!
身体の上にかけられた薄いタオルケットから自分の下半身の方を見る。
そこには、今朝まで自分が男性だと主張していたモノはもう無い。
「無くなったね?」 自身でつぶやき、頷き、
「後悔してないよね?」 自分で問いかけ、「してないよ」と答える。
両親には言っていない。
「ごめんね、勝手に男をやめてしまって」親に謝らなきゃ。
妹にも言っていない。
「もう、お兄ちゃんじゃなくなっちゃった」なんて冗談めかして言おうか。
本当に後悔はない、アタシの人生は今から再スタートするんだ。
これからも、この身体をもう少しいじって、もっと女らしくしていくんだ。
そのためには、また、もっと働いてお金を貯めなきゃ。
そして、心も身体も女になれるよう、毎日を一生懸命生きるんだ。
10年後にどうしてるかって?
花を咲かせてみせるよ! きっと! 自分の店を持って。
───そして、両親や妹、親友を招いて言うんだ。
「わたしの店にようこそ!」って。
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