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あの頃も、こんなに思うように書けなかったっけ?
開いたのは、昔々に終わりにした小説サイト。非公開にして十年になる。掌篇小説が並んでおり、その中のいくつかを開いて読んでいく。
中には拙すぎて赤面ものの話もあるが、いくつかは読み手の評判も良く自分でも気に入っていた。
一番初めに投稿した話を読む。
気恥ずかしい青春キラキラの物語。
最初の頃はサイトに訪れる人もなく、勢いで書いては話を投稿していった。
自分の中の物語が、文字になって外に出ていく、くすぐったい喜び。反面、自分の話は受け入れられないのかという不安。
そのうちに一人、また一人と訪問者が現れた。
何ヶ月か後に初めてのコメントがつき、一年後には数人の常連さんが出来た。
「あの話が好き」
「面白かった」
涙が出るほど嬉しかった。
ああ、この話は本当に悩んだ。
いつもとは少し違ったジャンルに挑戦してみたが、書きたかったことが上手く表現出来なかった話。
反応もイマイチで、自分の意図した所とはズレた解釈がきた。どうしたらいいのかと迷走し、途中で投げ出したくなったのだった。
力不足に転げ回り、どう受け取るのも読み手の自由なのだと思えるまでに時間がかかった。
最後に投稿した話。
その頃、とても悲しいことがあって、環境が変わり、話を書けなくなった。絞り出すように、読んでくれた人に、さようならとありがとうの短い話を書いた。
読んでくれてありがとう。好きと言ってくれてありがとう。読んでくれるあなたがいなければ、生まれなかった話がいくつもあった。
そして、十年経って、また同じ苦しみと喜びの中にいる。
私は物語を愛している。
目はしょぼくれ、頭の回転は鈍り、夜は起きていられず、あの頃のようにはキラキラしてはいないけれど。
願わくは、十年先も物語と共にあるように。
おわり
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