アニバーサリーウェディング

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 結婚十周年パーティーを夫は、私のために開いてくれた。レストランを貸し切り、家族や友人を呼び、豪華な料理が並び、まるで結婚式だ。  しかし、安心出来ないこともある。料理の中には、牛乳や卵が使われたものもあった。彼は、どちらのアレルギーも持っている。結婚してから発覚し、結婚後の最初の試練はこれだった。私は、プリンが大好きだからだ。とはいえ、今となっては日常であり良い思い出だ。 彼がマイクの前へ立つと、懐から手紙を出した。拍手喝采の中、何を言うのか楽しみだ。 「十年間、私の妻でいてくれてありがとう。これは、十年前のキミへ当てた手紙だ。現在のキミへは、いくらでも感謝も愛も語れる。しかし、十年前のキミにはもう会えない。だから、現在のキミが代わりに受け取ってほしいと思う」  言葉とは裏腹に深刻な顔をする夫。私は面食らってしまう。 「今日は、十年前のアレをどうしても謝りたいと思っている。罪悪感というものは何よりも強く、私は今だにアレに関するものに強い拒否反応を示してしまう。キミは私を馬鹿だと言うだろうが、謝るタイミングを逃し続けてしまったんだ。十年という節目をキミと迎えれて幸せだ。パーティーを開くほど浮かれている。なのに、頭の片隅で十年前のアレがよぎって苦しい。そこでキミに懺悔したい。許さなくとも聞いて欲しい」  私には心当たりがなかった。不安な表情で見つめると、彼が覚悟は良いかと問う。怖かったが、首を縦に振った。 「結婚初日に貰ったプリン、全部食べてゴメン」  正直、意味が分からない。しかし、彼は痛々しい表情で続ける。 「結婚初日、キミが風呂上がりに食べようとしていた貰い物の箱の中身は、プリンだったんだ。あまりの美味しさに全部、食べてしまった。食べ終わってから我に返った私は、近所のケーキ屋でゼリーを買って、中身を入れ替えたんだ」  私は、話について行けず呆然としていた。その間も夫は謝り続ける。  この出来事を隠そうとするあまり、プリンを見れば寒気がするようになったとか。終いには牛乳や卵を見るとプリンを連想してしまうらようになったとか。  私は、あまりのことにひっくり返りそうだった。こんなことで、私の愛が冷めると彼は思っているのだろうか。  馬鹿な夫は、今だに震えて十年前の私に許しを乞う。私は、ドレスを翻し夫の元へ走った。力いっぱい抱きしめて、彼の唇を奪う。いつまでも彼の心に居座るなんて、十年前の私だって許せなかった。
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