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頼む。このノートを捨てないでくれ。この話は本当だ。最後まで必ず読んでくれ。俺は10年の間をずっと、何回も何回もタイムリープしている。そして、その期限が明日だ。明日になれば、また俺の意識は10年前に戻ってしまう。
俺は今37歳と10カ月。2030年6月21日。それがタイムリープが起こる日だ。そして俺は2020年6月21日に戻ってしまう。
タイムリープしたことに、最初俺は気がつかない。しかし、どこか見たことのあるような風景や、会話、行動。そういったものに徐々に違和感を覚え、遂にタイムリープの事実に気がつく。
もう何度、同じ時間を過ごしているのか、俺にもさっぱりわからない。しかし、何をしても新鮮さがなく、驚きもなく、ただ、どこかで見たことのある既視感のみに襲われる。本当に、頭がおかしくなりそうだ。
このノートには俺がタイムリープに気がついて以降が書き記されている。目を通してほしい。
重要なことは、お前が7年後の8月12日に出会う「斉藤あさ美」という女だ。その女が、このタイムリープの謎を解く鍵を持っていることを、俺は確信している。これは事実だ。この女を絶対に手放してはいけない。
疑っているだろう。しかし、これは事実だ。これを事実と認め、手を打たなければ、お前はまた、同じ10年を繰り返すことになる。どうか俺を信じてくれ。そうすれば、お前と、そして俺自身を、この呪縛から解き放つことが出来る。まずはこのノートを隅から隅までよく目を通してくれ。そして、
「なんだよこれ、気持ちわるっ」
俺はそういうとノートをつかみ、ごみ箱に放り投げた。ずいぶん分厚いノートだったので、ずしっという重い音がした。
「俺の字で書いてあったのがまた気持ち悪い」
そう思いながら、俺は布団に寝転がった。不意に目が覚めたとき、何故か机の前にいて、俺は心底驚いた。そして、目の前に置かれていたノート。
見たこともない。
布団の中で、夜中にあんなものを作っていたのだろうかと考え、俺は少し気味が悪くなった 。まるで夢遊病患者だ。
その考えを振り払うために、俺は頭をぶんぶんと大きく降り振り、布団を頭までかぶった。
「今、何時だよ」
ふとそう思い、スマホを手に取ってみた。2020年6月21日1時31分。
「げっ、日付かわってんじゃん!とっとと寝よう!」
俺はスマホを置くと、すぐに眠りについた。
そんなノートのことなんか、次の日にはすっかり忘れていた。
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