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10年待て
「10年待て久道。大丈夫、それでチェックメイトだ」
祖父は魔法使いだった。
茨の魔女と呼ばれた彼は戦後の日本に忽然と現れ、華奢な身体に大したことない魔法、けれども類まれなる知略により魔の道に君臨した最強の魔法使い。
東京十三魔女会の第一席。
そこに長らく君臨し続け、無法の魔女たちを捻じ伏せてきた。
けれど俺が5歳の頃。
彼は病により十三魔女会の席を追われた。
祖父が抑え込んでいた無法の魔女たちにより変質する日本。
その光景を眺めて、病床で祖父は俺に言った。
「久道。10年後の君にこの国を託す。大丈夫、君が偉大な魔法使いなのを、僕はよく知っている」
「爺さん」
「君の魔法適正は『時間操作』。手ずから君を育てたかったが――『茨』程度の魔法使いに、その才能は持て余したようだ。本当にすまない」
最後まで祖父は笑っていた。
そしてその本心を語らなかった。
魔女たちが空を飛び交い、普通の人々を虐げる。
ディストピアと化した日本の空を眺め――10年の時は過ぎ去った。
15歳になった今年。
俺は、魔女育成のために十三魔女会が造った高校に入学した。
「戸高久道。茨の魔女の孫だが血縁はない。『時間操作』は珍しいが」
「……『停止』が限界。俺に才能はありません」
「フィクサーの孫が弱気な。まぁ、その方が今の魔女会には都合がよいか」
担任教師との一対一の顔合わせを終えて教室を出た。
10年、待て、か。
「……待ったぞ、爺さん」
しかし、いったい、何が変わる。
俺は弱い魔法使いのまま。
十三魔女会は無法の魔女たちが牛耳った。
人々は魔女に震え、正義も平和もこの国にはない。
なにも、変わらない。
なにも――。
その時。
ふと尻に魔力を感じた。
振り返れば、植物の蔦のような帯が、財布の入ったズボンに伸びている。
帯を辿れば。
「あ、バレちった?」
いかにも悪知恵の働きそうな、そしてバレることは織り込み済みという顔をした少年が居た。
彼は、これでチェックメイトという感じに笑う。
「戸高久道だよな? 茨の魔女の孫の?」
「……そうだが」
「俺、城崎丈。お前と同じ一年生で弱小魔法使い。だから仲良くしねえ?」
「……どういう理屈だ」
まぁまぁと近づいてきた城崎は、なれなれしく俺の肩に手を回す。
そして耳元でぼそりと囁いた。
「でさ、使う魔法は『茨』なんだよ。お前の爺さんと同じ」
「……だから?」
「ご教授願いたいなって。たとえばさ」
――十三魔女会のぶっ壊し方とか。
そう言って、城崎はまた笑った。
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