6人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう十年になります」
問わず語りに地蔵がそう言った。だけど、別に驚くことはない。地蔵が言ったように、もう十年の付き合いだ。
「梅雨だというのによく晴れた日のことでした。まるで今日みたいな」
「そうだな」
「あまりに悲しい顔をしているのを見て、声をかけずにはいられなかったのです」
声をかけられた方はたまったものじゃない。驚き腰を抜かしたのは、もはやいい思い出だ。
「一人になり寂しかったでしょう」
地蔵は表情を変えないが、憐れんでくれているのは分かった。
「いや、辛かったのは向こうの方だと思うよ」
私はふと空を見上げる。梢の隙間からチラチラと太陽の陽が輝いていた。少し灰色がかった雲が、青い空との境界線をはっきり分けている。まるで、あの日から変わったすべてのようだ。
結婚式を翌月に控えていた。彼女のお腹の中には子どももいた。名前だって決まっていたのだ。新居も見つけ、家族三人での幸せな日々が始まるのだと思っていた。
――それなのに。
不慮の事故だった。大型トラックと乗用車が三台、それに通行人も絡んだ悲惨な事故。犠牲者は十人にも及んだ。
最初のコメントを投稿しよう!