一喜一憂

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 応募したのは、『幽霊探偵キンダイチの事件墓!』という作品だ。完結させる事が出来た、初めての長編だった。  タイトルで大体想像がついてしまうかも知れないが、自分の墓で探偵事務所を営む幽霊が、お化けたちが行う文化祭を守る為に真夜中の学校で奮闘する物語だ。  思いついたのは、大学で小学校家庭科の集中講義を取った時だった。調理実習の時間で、調理用具の準備をしていた時に、味噌汁を作る為の鍋を手にして、その時ふと、それを頭に被ってみたくなった。  現実世界で出来ない事は、小説として昇華してしまおう。調理実習をする間、どうしたら鍋を頭に被れるかを考えていた。授業が終わる頃、出来上がった味噌汁(というより巻繊汁に近い)を啜って漸く辿り着いたのが、幽霊たちがお札に追い回されて家庭科室に逃げ込み、それを避ける為に鍋を被って応戦する、というシーンだった(試行錯誤の末、このままシーンとしては使えなかったのだが)。  すぐ家に帰ってパソコンに向かった。そこから話を書きだすのは早かった。長編なんて書いた事もないのに、高校時代に演劇部で脚本を書いていた時の事を思い出しながら、メモを取って自分なりの伏線を作って、今までにないくらい丁寧に、考えながら作品作りに没頭した。お陰で同時期に控えていた試験が大わらわだった。  ところが書き出したは良いものの、段々と更新頻度は滞って行った。理由は実にくだらない。飽きが回って来てしまったのだ。元々熱しやすく冷めやすい性格なのは分かっていた筈なのに、その点に関しては無計画に書き出してしまったので、学校の忙しさにかまけて段々とさぼるようになってしまう。それまで長編に挑戦しようとしなかったのはその事があったからだ。  そんな時、一つの転機が訪れた。まだ書き始めて間もなかったその作品を、新作セレクションに取り上げて頂いたのだ。  最初にメールが来た時は、何の事やらと一瞬首を傾げてしまった。その後サイトを見た時は、全身に稲妻が走ったような衝撃があった。  ごめんなさい。  面の皮が厚い。がめついとは十分承知の上です。  でも。  言わせて欲しい。  とうとう来た!! 私の才能が開花したんだ!!  やった! 遂に遂に、私もエブリスタの猛者達と肩を並べられる時が近付いて来たぞ!  この時は、本気でそう思っていた。何と言われようと、編集部の方々の目に留まったのは事実なんだ。あらすじまで書いて頂いたという事は、中身にも目を通してもらえたのである。  それから読者の数はうなぎのぼり。スターの数は初めて千に近付き、本棚登録数は初めて三桁に到達した。  これはいける、そこまで自信になっていた。
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