あの頃の十数分

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 大尉である私は、数十人の兵士と士官を擁する部隊を束ねていた。  山間部に出現した狼型怪獣の駆逐任務でこの基地に来たが、ここに来るのは10年ぶりだった。  多くの会議やブリーフィング、戦闘準備などを済まして時間が空いた私は、基地内を散歩する事にした。その最中に見つけたのは、錆びたバスケットゴールとその足元に広がるバスケコートだった。  ちょ来いよ! 人いないんだ!  私の頭の中に、ふと響いた。  10年前、まだ20代半ばの軍曹長の頃。あの時も私は、部隊の一員として狼型怪獣の駆逐任務でこの基地に来ていた。  ブリーフィングや戦闘準備を済ました私は、基地内の売店で飲み物を買おうと歩き出した。  しばらく歩き、売店がある建物が見えた時だった。  「ちょ来いよ! 人いないんだ! 金髪の君!」  金髪の君――あの頃の私だった。私は、声の方に振り向いた。バスケコートに、同じ隊の仲間と他部隊の兵士達がいた。  「高校バスケ部だろ! やろうぜ!」  同じ隊の同期がそう言うので、私は向かった。  私の仲間と一緒だった他部隊の兵士達の中に、偶然にも同郷がいた。  地元のハンバーグの美味しい店、小さな川の橋にまつわる怖い話、20年前の大水害――いつの間にか彼と話が盛り上がり、その盛り上がりのままスリーオンスリーのバスケを始めた。  十数分間という短い間でも数時間のように長く感じられる程、彼らとバスケを楽しむ事が出来た。  帰り際、同郷の彼は言った。  「そんじゃ、また今度な」  「おう」  古くからの友人かの如く私はそう返事して、バスケコートをあとにした。  肝心の駆逐任務は、私が属する部隊の一兵士がターゲットの狼型怪獣を発見し、戦闘機の攻撃で見事に退治された。  しかし、軍側の被害も大きかった。ターゲットの狼型怪獣の他に同種の小さな個体が複数確認されたからだった。  任務を終え基地に一旦戻った時、私は同郷の彼の殉職を知らされた。  あまりに呆気ない報告で、ほんのちょっと前に盛り上がった仲間がもういない現実をすぐに受け入れるのは無理だった。  実は、今でもそう思う。  その出来事が小さなトゲとなって心に刺さったまま、今この基地にいる。  あの時と同じ狼型怪獣の駆逐任務でここに10年ぶりに来たのは、運命なのか。あの時の同郷の彼の敵討ちとして、神様がこの状況を演出したのか。  色々な考えが頭の中を駆け巡ったが、とにかくこの任務を完遂させる事に変わり無く、私は再び歩き出した。 END
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