10年後の自分への手紙

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10年後の自分への手紙

 「10年後の自分へ」  その日中に放課後に残ってでも書き上げるよう先生に言われていた。何をそんなに書くことがあるのか、クラスメイトは続々と提出を終え、荷物をまとめて帰っていった。昔から作文の系統が苦手だった俺は最後の一人に残った今も一文字も書けなかった。  やっていて楽しいことはあるし、誰かの役に立つとか何かを成し遂げるとかそういった充実感も分かる。でも、自分の将来なんてさっぱり目測がつかなかった。結局は、今を生きるのが精一杯で、今を生きているのが一番心地よかった。  何も書けないまま、時計の針が動くのをただ見つめる。  チッ、チッ、チッ  俺以外、誰もいないからかハッキリと秒針の音が聞こえた。  ガラガラガラッ  静寂に包まれた教室のドアが開かれる。  「なんだ、まだ書いてたのか?さっさと提出して、早く帰れよ。」  入ってきた担任の先生は教室の入り口から俺に声をかける。  (書けないから帰れなくなってんだよ)  先生は俺の近くまで来て、机に広がった白紙を覗き見て言った。  「書くこと思い付かないのか?何でも、いいんだぞ。自分への手紙なんだから。」  「じゃあ、白紙でもいいですか?」  「それは駄目。」  先生は間髪入れずに俺の心を折る。  「今、思ってることをそのまま書けばいいんだぞ?何かないのか?将来の夢でも、やりたいことでも、今感じてる不安なんか書いてもいい。10年後に自分が見た時、結構面白いと思うぞ。10年前はこんなこと考えてたんだな~、って。」  それでも、俺の筆は進まない。  「そうだ!恋愛もいい。好きな子いるだろ?好きじゃなくても、気になってる子とか、可愛いなって思う子の一人や二人。」  先生はニヤついた顔で言った。  俺は苦笑いで返す。  「まあ、ゆっくり考えな。出来たら職員室にいるから、持ってきてくれ。」  (提出して早く帰れって言ってたくせに)  その言葉を最後に先生は教室から出ていった。
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