10年後の君へ

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「そんなに作らなくて良いって」 今までの経験から母は意外と頑固だと知っているので、横から口を挟んでも無意味な事には気づいている。 それでも何か文句が言いたくなってしまうのだから、我ながら反抗期というのは面倒くさい。 「これはねぇ、お母さんからあなたへの、お手紙なの」 「……は?」 母は現在、まな板の上で人参を細かく刻んでいる。 「うーん、なんて言えば良いのかな……」 料理の手を止め、少し考えるように斜め上に視線をやる。 「例えば、10年後。あなたから、元気だよ~って。……それだけ返事をしてもらえたら、お母さんはとっても嬉しい」 ん? ぽかんと口を開けた私ににっこり笑って「そういうこと。」と締めると、母は再びまな板に向かった。 ……うん。 「意味不明」 呟いて、鼻歌混じりでご機嫌の母を台所に残し、部屋に戻る。 はたして10年後。 私は母に「元気だよ~」と、阿保みたいにのんきな事を言うのかどうか。 今の私には、解るわけは無くて。 今分かっているのは、夕飯の唐揚げが美味しすぎて、いつも通り食べ過ぎてしまった、という事だけだった。 「はぁ~苦しい……」
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