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今日は親父の10回忌だ。急すぎる死、早すぎる死に当時は取り乱したものだが、月日は無情だ。今は冷静に物事を見つめることができる。10年を節目にそろそろ整理しようと、押し入れから遺品を取り出した。
早速、段ボールから携帯電話が転がり出てきた。相続の関係や写真を見るために、死後すぐに中身はあらかた調べ終えていた。しかし10年の歳月で懐かしくもある。写真を見ようと携帯を充電器にかけた。
10分もすると電源が入った。今は見ない、10年前の機種を懐かしみつつ手に取ったが、すぐさま画面の表示に気を取られた。一件の通知が表示されている。解約しているので当然メールではない。それはカレンダーに記された覚え書きだった。
「10年後の私へ。未だ顕在ですか? もちろんそうですよね。10年生きるって誓ったんだから。……しかし今は、大見得切ったことを少し後悔しています。日に日に衰えていく身体。想像以上の苦痛の抗がん剤。余命30か月と言ったあの医者を、初めは見返してやるつもりだったが、見立ての甘さが身に染みています。もちろん諦めはしないが、万が一のことがあったら、言えなかった時のためにここに書き残しておきたいと思う。絵美子、受験合格おめでとう。それから成人式もおめでとう。結婚、おめでとう。正弘、次男は損だな。それからハンデを背負わせて生んで、すまなかったな。嫌な思いをたくさんしたことと思う。しかしお前はその分強く優しく生きていけると信じている。祥子、子供の世話から何まで苦労をかけたな。俺ばっかり海外に行ってごめんな。そして野菜を食べなくてごめんなさい」
メモはそこで終わり、自分への言及はないのかと私の中に一気に不安が沸き起こった。しかし私が焦りながらスクロールしていると、すぐさまそれは杞憂であると判明した。
「P.S. 泣き虫の長男くん、店は順調ですか? お前は兄妹の中で一番心配だが、その性格を鑑みるに、きっと遺品を大切に保管し、このメモにも気づいてくれるだろう」
イタズラ好きで童心を持った、楽天家の父。10年ぶりに感傷に浸ると、私は結局遺品を押し戻した。
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