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「俺はこれで今を変える……! このスカイメールでなっ!」
掲げた携帯には七色に輝くアイコン。俺が手にした超科学アプリ。
「何それ? 輝臣?」
明日香が首を傾げる。少し明るい栗色の髪を肩まで伸ばしたボブ。特別に美人なわけではないけれど可愛げのある俺の幼馴染兼彼女だ。
「ふっふっふ。聞いて驚け! このスカイメールは時空を超えて、十年前の自分にメールを送ることが出来るアプリなのだ!」
「あ〜、シュタゲのDメール?」
「わーわーわー!」
危険なことを臆面もなく呟く女である。
「で、それでどうするの?」
「ふっふっふ、これを使えば、俺はアイドルの彼女を得ることだって出来るし、億万長者にだってなれるのさ! お前には手の届かない存在になる。悪いな、明日香」
「はぁ。メール如きでどうやって今を変えるのよ?」
「例えば小学生の時、クラスに綾瀬美紀っていただろ?」
「今じゃ有名アイドルになっちゃったけどね」
「そう。十年前の俺にメールを送って『綾瀬美紀は将来アイドルになるから、今のうちに付き合っておけ』って言うんだ。――善は急げ! 送信!」
送信ボタンをタップした瞬間、世界が揺らいだ。
頭が歪むような感覚、朦朧とした意識がやがて収束する。
「大丈夫? 輝臣?」
「あ、ああ……」
世界線は確かに変動した。
「俺の彼女って……誰だっけ?」
「何よ今更? 私が彼女じゃ不満なの?」
明日香が怪訝そうに眉を顰める。
「俺、……小学生の時、綾瀬美紀にアタックしてなかった?」
「あー、あったね。一時期、急に綾瀬さんのこと気にしだして。一言も喋れてなかったけど」
あー! 小学生の時の俺! なんてチキン!
こうなったら次は億万長者だ! 十年前の俺にグーグルの株買わせるんだ! スカイメール送信! 世界が歪むぅ〜、で、収束!
目を開けるとやっぱり明日香がいた。
「えっと、俺、億万長者になったりはしてないよね? 俺、小学生の時にグーグルの株買ったりしてなかった?」
「あーなんか、小学生の時、そんなこと言って、おばさんに怒られてたわね」
確かに、小学生が、株は買えん!
それから何度を送信しても、結局今は変わらなくて目の前には明日香が立っていた。
「ねぇ、輝臣? そんなに今を変えたいの? 私と生きる今じゃ、嫌?」
ボブの髪が揺れて上目遣いで覗き込まれる。
「いや。そういえば、特に不満は無いな」
世界線がいくら変動しても収束する先は明日香みたいだ。
ま、それでいっか。
その後二人で、めちゃめちゃラーメンを食べた。
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