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誠一は黄色い日記帳を広げた。
最後の日付は十年前だ。そこに誠一は書き足した。あの日の自分への切なるメッセージだ。意識がじょじょに薄れていくのを感じていた。
『十年前の僕へ。体が裂けるほどの、あの苦しかった決断は間違ってなかったよ。幸紀は今、頑丈な幸せを手に入れた。おめでとう、幸紀。これで僕も報われ……』
気づけば誠一は泣いていた。嗚咽するように泣いていた。涙と鼻水がページにぐちゃりと垂れている。
誠一はもう一度スマホを握った。
――幸紀、幸紀、幸紀。
ずっと、幸せにな。
画面の幸紀は白いタキシードを着た男と腕を組み、屈託のない幸福な笑みを広げていた。
うぁぁぁああああああああああ
喉が痛い。誠一は顔を歪めて泣き続けた。
その声が途切れる瞬間、彼の意識はとんだ。視界が真っ暗闇に落ちる。
しばらくして、ようやくまた目を覚ました。
誠一は小さく首を振った。肩を回し調子を取り戻した。
「ん? 誰だよ、これ」
誠一はスマホの画面を見た。知らない女性がウエディングドレスを着ている。興味もなく、誠一はあくびをした。誰かの結婚報告が誰かのリツイートで回ってきたようだ。
「幸せそうな顔だな」
見ず知らずの誰かの幸せを眺めた。
不思議なことに、胸の底から込み上げるものがあった。
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