見知らぬ誰かの幸せを

2/2
前へ
/2ページ
次へ
誠一は黄色い日記帳を広げた。 最後の日付は十年前だ。そこに誠一は書き足した。あの日の自分への切なるメッセージだ。意識がじょじょに薄れていくのを感じていた。 『十年前の僕へ。体が裂けるほどの、あの苦しかった決断は間違ってなかったよ。幸紀は今、頑丈な幸せを手に入れた。おめでとう、幸紀。これで僕も報われ……』  気づけば誠一は泣いていた。嗚咽(おえつ)するように泣いていた。涙と鼻水がページにぐちゃりと垂れている。  誠一はもう一度スマホを握った。  ――幸紀、幸紀、幸紀。  ずっと、幸せにな。  画面の幸紀は白いタキシードを着た男と腕を組み、屈託のない幸福な笑みを広げていた。  うぁぁぁああああああああああ  喉が痛い。誠一は顔を歪めて泣き続けた。   その声が途切れる瞬間、彼の意識はとんだ。視界が真っ暗闇に落ちる。 しばらくして、ようやくまた目を覚ました。  誠一は小さく首を振った。肩を回し調子を取り戻した。 「ん? 誰だよ、これ」  誠一はスマホの画面を見た。知らない女性がウエディングドレスを着ている。興味もなく、誠一はあくびをした。誰かの結婚報告が誰かのリツイートで回ってきたようだ。 「幸せそうな顔だな」  見ず知らずの誰かの幸せを眺めた。  不思議なことに、胸の底から込み上げるものがあった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加