母さんへ

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僕が13歳の時に母は死んだ。 一人息子である僕に毎年一通ずつの手紙を残して。 誕生日が来るたびに父は母からの手紙を僕に渡してくれた。 元気ですか? で始まる母からの手紙を僕は毎年とても楽しみにしていたんだ。 しつこいくらいに母は僕の性格を心配していた。 ちょっと暗い子だった僕に。 相談できる親友はいますか? 笑いあえる仲間はいますか? お父さんとは仲良くしてますか? あなたは少し短気でワガママだから誰かとケンカなんかしてないかしら、と心配で仕方がないのよ。 毎年毎年それだけはいつも書かれていて、心配性だった母が今もオロオロと僕を見守ってくれているようだ。 僕はそれに毎年苦笑して大切に大切に机の引き出しの中にそれを仕舞っていた。 今年は父からのそれが無くて、だから僕は父の部屋に忍び込んで探したんだ、母の手紙を。 まだあった、まだまだあった、それはきっと20年後の僕にあてたものも。 カップラーメンを啜りながら階段を上りカーテンを閉め切った自室へと戻ってその手紙を開いた。 23歳のサトルくんへ 10年後のサトルくん、元気ですか? 大学を卒業して、あなたはどんなところに就職したのでしょう? 周りの人とはうまくいってますか?お友達ともうまくやってる? 気にいらないことがあるからといってすぐに怒ったりワガママを言ったりしてはいないですか? サトルくんはいい子だけど、時々火がついたように怒り出しちゃうのでそれがお母さんは心配で心配で。 母さんの笑顔を想いだして笑った、笑ってたら涙が出てきて顔をこするとヌルリとした感触に苛立った。 手紙は続く。 お父さんは元気にしてる? 仲良くしてる? 病気なんかしてないかしら? たまには一緒にお酒を飲んでたりして。 ねえ、母さん。 父さんがさ起きてこないんだ、オレの誕生日だというのに。 父さんはいつも口うるさいの。 やれ周りに恥ずかしい、とかせめてバイトくらいしろ、とか。 うるさくて、本当にうるさくて。 仲良くなんかできてないんだ、もうずっとね。 箸を持つ手も手紙を持つ手も。 真っ赤なんだ、母さん。 10年前からのあなたの心配がこういうことだったんだなって。 母さんは預言者みたいだ。 あはははと笑った鏡に映った自分も真っ赤だった。
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