十年前の私へ

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十年前の私へ

私は十年前に大好きだった彼にフラれ、しばらくの間立ち直れなかった。食事も喉を通らず、仕事にも集中できず、とにかく酷い有り様だった。 私のそんな様子を見かねてか男の同僚である一ノ瀬が私を励ますために飲みに連れていってくれた。神様というのは奇妙な巡り合わせを与えるものだ。一ノ瀬も最近付き合っていた彼女と別れたらしい。お互い失恋した同士という訳だ。 ……が、この巡り合わせが私と一ノ瀬を交際へと導くこととなる。一ノ瀬は元から私とは仲か良かったので、一ノ瀬の方から恋人として付き合って欲しいと交際を申し込まれた。私は迷うことなく了承した。 一ノ瀬との付き合いは順調に進んだ。デートは当然するが、一ノ瀬の家で一緒に食事を作るのは緊張した。何せお互い料理はできなかったからだ。悪戦苦闘しながらも最初に作った肉じゃがは甘すぎて砂糖を食べてる気分だったが、これはこれで良い思い出だ。私はこれを期に料理をしっかり勉強しようと決心した。一ノ瀬に美味しい肉じゃがを食べさせたいと思ったからだ。 交際してから約一年後、私は一ノ瀬からプロポーズされて結婚することとなった。こちらも迷うことなく了承した。 「美味い!」 息子の樹は私が作った肉じゃがを食べて率直な感想を言った。 「そう?」 「母ちゃんの肉じゃが最高だよ!」 樹は満足げな様子だった。 一ノ瀬からのプロポーズから十年が過ぎ、私と一ノ瀬の間に息子が生まれ、今は八歳になる。何かと手はかかるが可愛いのには変わらない。 「なら良かったわ」 私は明るく言った。 私の料理の腕も上達し、肉じゃがも誰が食べても美味しいと言えるレベルにまでなった。 「ただいま」 「あ、帰ってきたみたいだね」 私が言っている間にも一ノ瀬……いや佑真がこちらに来た。 「お帰りなさい、あなた」 「おっ、今日は肉じゃがか」 佑真は食卓をまじまじと見つめた。 「そうよ、早く着替えて一緒に食べましょ」 私は言った。 それから私は家族三人で食事を食べた。心安らぐ時間だった。 十年前の私へ、君は辛いかもしれないけど、十年後の今は凄く幸せだからね。
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