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周囲の友人たちが笑う。好きな女優は?と訊かれ指差しただけなのに。
「他にもいい奴いるのに、どうしてそいつ選ぶんだよ?」
そう言われ、スマホの彼女を見る。確かにヒロインやその親友役の人と比べると、綺麗でも可愛いわけでもなく地味だ。でも、悪く言われるのは癪に触った。
「でも、お前らが好きな女優だって化粧や服がいいだけかもしれないだろ」
そう言って自分の席に戻る。まだ笑われているような気がして、それを消すように参考書の問題を解き始めた。
北国の冬は険しい。進路指導を受けている中、窓を見ると今日も吹雪いていた。
「それでこの大学にした理由は?」
「・・・・・・映研が面白そうだったから」
「だから。そういうのじゃなくて勉強したいこととか将来なりたいものに合った大学を」
ペンで机を小突く度、胸が痛む。でも、先生に対する言葉が見つからない。すると、先生がいくつかのパンフレットを渡してきた。
「先生も合いそうな大学探してみたんだ。今ならAO入試で受験できるぞ」
パンフレットの写真を見ると、皆大きく口を開けバレエのようなポーズをとっている。別に役者になりたいわけじゃないんだけど。
「・・・・・・考えときます」
そのパンフレットを鞄にしまい、学校を出た。
吹雪が強くなかなか前に進めない。大学決めるのに、深い理由が必要なのか。周りもろくに見えず目を細めて歩いていると、遠くから声がした。
「おーい、やっぱりいたか」
僅かに見えるのは、スーツにコートを羽織った男の姿。親父かそれとも先生とか。俺が近づこうとすると、男が一層声を上げる。
「お前はそのままでいい!」
そう言われ思わず立ち止まった。でも、男は一向に近づいてこない。やがて、吹雪は収まり男の姿も声もなくなった。そのままでいい、ってなんだよ。用があったんじゃないのか。振り返るとまだ校門前で、進路指導の先生が出てくるのが見えた。
俺はハッとして先生に走り寄った。
「どうした、まだ帰ってなかったのか?」
「先生、俺――」
吹雪で濡れた頭を妻が拭いてくれた。
「ありがとう。関西でも吹雪くことがあるんだね」
「そりゃ、山の上やからね」
目の前の彼女はテレビで見るよりずっと愛らしい。ふと先ほどの出来事を思い出す。
「そういえば、さっき10年くらい前の俺に会った」
「前話とったやつ? なんか言ってあげた?」
「いや、同じことしか言えなかったよ」
肩を落とす俺に彼女が微笑む。そのままでいいというように。
おわり
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