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柘植のおぐし
つやつやになーれ、つやつやになーれ。
真っ白な雪が積もっちゃったのを溶かすように、私の力をわけてあげる。
つやつやになーれ、つやつやになーれ。
ぴしっとなるくせに、どんなに力をわけてあげたって昔みたいな闇夜の色にならないのはちょっぴり悔しい!
つやつやになーれ、つやつやになーれ……。
「さぁ、これぐらいかしら?」
ふわふわと揺れる綿毛。
わたしはお行儀よく座って、ゆみこちゃんの頭を見上げる。
うんうん、きれいになって、手触りもいいや! 満点の出来映えー!
「今日もありがとうね」
ゆみこちゃんが私を撫でてくれる。
お礼の言葉もいただいちゃいました!
えへへ、と嬉しくなった私に笑いかけてくれたゆみこちゃんは、今日もおしゃれをして元気におでかけです!
◇
ゆみこちゃんは、私に丁寧に接してくれる、優しい人。
十年前、ゆみこちゃんの旦那さんが私を連れてきてくれた時、とても嬉しそうにしてくれたの。
その笑顔が、今でも私の中に残ってる。
いつまでゆみこちゃんといられるのかな。
私の方が、ゆみこちゃんよりずうっと寿命が短いの。
今もまだ生きているのは、ゆみこちゃんが私のことを丁寧に扱ってくれているから。
そんなゆみこちゃんが、私は大好きです。
だからゆみこちゃん、もっともっと、私と一緒にいてください。
さらに十年時を重ねて、私が壊れてしまった時は、私のことをきっと惜しんでください。
◇
つやつやになーれ、つやつやになーれ。
真っ白な雪が積もっちゃったのを溶かすように、私の力をわけてあげる。
つやつやになーれ、つやつやになーれ。
あらら、髪が絡まっているよ。ゆっくり丁寧にほぐしてあげてね。
つやつやになーれ、つやつやになーれ……。
壊れ物のように、誰かがゆみこちゃんの髪をとかしているよ。
ゆみこちゃん、今日もおしゃれだね。
真っ白なお着物がとても似合っているよ。
ふわふわと揺れる綿毛。
うんうん、きれいになって、手触りもいい。
満点の出来映え、だけど。
ゆみこちゃんは、いつもみたいにお礼を言ってくれない。
いつもみたいに笑ってくれないよ。
ゆみこちゃん、ゆみこちゃん。
白い箱に入ってどこ行くの?
あっ、私も入っていいの?
眠るゆみこちゃんの枕元。
私も一緒に眠っていいのかな。
◇
つやつやになーれ、つやつやになーれ。
ゆみこちゃんの髪を綺麗にするのは、柘植の櫛のお仕事です。
天国でもきっと、私はゆみこちゃんの手のひらにありますよ。
だから心安らかにおやすみなさい───。
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