君の左手

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徒歩15分。 君の通う私立高校と、僕の通う公立高校の距離なんてその程度のものだった。 中学の終わりに君と付き合い始めてから、今年で三年目。 積み重ねた年の分だけ、君のことに詳しくなれるのは、違う高校に通う僕にとっては一番の心の支えだったりする。 少しだけ門から離れたフェンスにもたれ、スマホで音楽を聴いていると、小鳥が跳ねるように視界の隅で紺色のスカートが揺れる。 「こうちゃん!」 イヤホンから流れる音楽を飛び越えて、(しずく)の弾むような声が聴こえる。 「お疲れ様」 僕は右側のイヤホンを外し、小さな頭を優しく撫でる。すると君はかならずお決まりの台詞を口にする。 「疲れてませんけど?」 「じゃあ、デートでもしませんか?」 そして僕も。 もう何百回も口に出した言葉で、今日も君を誘う。 「喜んで」 三年間続けてきた、僕と雫の合言葉。
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