君の左手

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「そう言えば今日ね、卒業間近だしクラスで『10年後のキミへ』って手紙を書くことになったんだ」 「へえ。雫は何て書くの?」 「んん、書きたいことが山盛りで、こうちゃんに相談しようと思って」 身長151センチ。右頬にホクロ。 ラーメンと塩辛が好きで、甘いものが苦手 動物は好きなのに、鳩は嫌い。 すぐにしゃっくりが出る。猫舌。 あと、爪が綺麗。 ちなみに今のブームはホラー映画。 今週末は僕の家で観賞会だ。 「こうちゃんは10年後の自分に何て言いたい?」 不意に、雫が立ち止まってその小さな左手を差し出した。 当たり前に、いつものように。 その左手を握りしめた。 「10年後か……」 いつもと同じ温もり。 いつもと同じ笑顔。 僕らはこの当たり前を、いつまで一緒に共有することができるんだろうか。 これから先、大学に進んで、就職して、僕たちが大人になった時。 君の隣にいるのは、果たして僕なのか。 「ああー、悩むの面倒だから、決めた!」 雫が手を繋いだままクルッと体をこちらに向けた。 「えっ、なに?」 自信満々に、何の迷いも無く。 少しだけ悪戯なこの笑顔に、三年前、僕は恋をしたのだ。 「10年後のキミへ。幸せになれよ!」 「どうよ?」と不敵な君の笑顔を見て、僕は腹の底から笑った。 「いいね。雫らしくて好きだよ」 「じゃあこうちゃんは?」 「僕?」 迷うことなんて無い。 感傷的になる必要なんてない。 今、僕の隣で笑うのが君ならば。 「僕のは……秘密」 「ずるーい!」 明日も、その先も、ずっと。 その笑顔を守ればいいだけのことだ。 『10年後の僕へ。この左手を絶対離すなよ』
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