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この話は、かれこれ十年ほど前、僕が小学校5年のころの話だ。
僕の実家は田舎で、辺り一面、田んぼに覆われている。しかし田んぼの一角に小さな神社がある。その神社は本当に小さく、鳥居と祠そして井戸があるだけだ。
そしてこの井戸には、ある怖い物語があるのだ。
以前は、ここら辺の田んぼは、大地主の旦那様のものだった。今では小さな神社になっているが、ここには旦那様の大きな屋敷があった。
その旦那様に仕えている執事やメイドは数えきれないほどいた。
しかし、多くの人が働いていると、トラブルも一つや二つは起きるものだ。
そしてそのトラブルの一つに恋愛関係のもつれがあった。
一人の執事が一人のメイドに恋をした。だけどそのメイドには、心に想っている男性が既にいた。メイドは丁寧に断ったが、その執事から嫌がらせをされるようになったのだ。
最初は些細なことだったが、次第に悪質に。そしてついに事件は起きた。
旦那様が大切にしていた十枚のお皿のうち、一枚が紛失してしまう。
その紛失した一枚は、私をフッたメイドが割って捨てたのだ、と執事が腹いせに罠を仕掛けたのだ。
旦那様はそのメイドを責めた。いわれのない罪なのに旦那様に責められ、そのメイドはひどく傷ついた。なにせメイドが想っている男性は旦那様のことだった。
旦那様に責められ、何もかも嫌になり、そのメイドはお屋敷にあった井戸に、残りの九枚のお皿と共に身を投げ亡くなった。
それからすぐ、旦那様は病気で亡くなった。近所の人々が「怨念だ」と噂になり、お屋敷は取り壊された。そしてそこに小さな神社を祀ったのだ。
僕は大学生になり都会に出た。久しぶりに帰郷したとき、ふっとこの話を思い出した。昔は怖くて近づけなかったが、興味本位で夜中に井戸へ行ってみた。
しかし事態は思わぬ方向に。井戸の中から女の声が聞こえてきた。
「一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚…」
次の瞬間、井戸のふちに手が見えた。そして一気に髪の長い女が姿を現した。
「やったー、ポイントがたまった。ねえ、そこのあなた、悪いけどこのポイントシールとお皿を交換してきてもらえない?十枚目のお皿なの」
女はパンをかじりながら、そう言った。
「毎年一皿ずつ、やっと十年で十枚のお皿が揃うの。旦那様、これで許してくれるかしら?」
彼女はそう言いながら成仏した。
これぞ十年愛。僕は腰を抜かした。
十年前の旦那様に教えたい。彼女の愛の大きさを。
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