棺桶の蓋が開く時

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 ***  意識は、唐突に浮上する。真っ暗な世界にすっと光が射し込むように。 ――ああ、十年後の世界に、到着したんだ。  俺はゆっくりと目蓋を持ち上げる。同時に、ぷしゅうう、という音がして装置の蓋が開いていった。俺は装置の中から立ち上がり――絶句する事になる。 「やっと起きたか、親父」  酒瓶だらけの部屋の中。落ち窪んだ目の男が、じろりと俺を見下ろしている。そして。 「これで俺も、楽になれるぜ。じゃあな」 「まっ……」  それが、大人になったタクヤであると知ると同時に――彼はナイフで、自分の首を切り裂いて絶命した。俺は混乱したまま、荒れ果てた部屋を物色し、知るのである。  俺が残る寿命で働かず、高い装置を購入したことで――家の家計が火の車になったこと。  借金取りに追われ、妻と息子が地獄の日々を過ごしたこと。  妻は数年前に首を吊り、息子も死ぬ時をずっと待っていたということを。 ――あああ、俺は、俺は……!  もし戻ることができるなら、十年前の自分に伝えたい。その選択は、愛する家族の未来を壊すと。
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