奇跡の結晶

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 破壊なくして進化は有り得ない。  一体、誰が言った言葉だろう?  世界中が未知の疫病に埋め尽くされ、凄いスピードで破壊と進化が進み始めて十年後――。 「あれ? みおみお、香水変えた?」 「うん! わかる。ローズ系にしたよ」  私達は端末越しに言葉を交わす。  テクノロジーの進化により、端末を通じて匂いがわかるようになった。  香水は勿論、料理やほのかに香るネイルオイルまで嗅ぎ分ける。  より一層、大切な友を身近に感じることが出来ている。  それでも、心を埋め尽くす虚無感は消えてくれない――。  端末に彼女の手がめーいっぱい映る。  僕はその手に自分の掌を重ねた。 「智則君の手って本当にあったかいね。子供体温だ~」  彼女がはしゃぐ。僕もつられて笑顔になる。 「奈実の手は本当に冷たいな。二人でちょうどいい体温になるな」  テクノロジーが凄い勢いで進化を続け、端末越しに手を重ねることで、相手の体温が伝わるようになった。  破滅を繰り返した結果に、僕らは新たな世界を手に入れた。  それでも僕らは満足していない。 「智則君、会いたいね……」 「だな。大丈夫。明けない闇はないから。いつかまた二人でどこかに行こうな」  しょげる彼女をせーいっぱいの強がりで励ます。  そう。どれだけテクノロジーが進化しても、僕らは本物と関わりたいのだ。 僕らはいつだって、本物を求めている。  それは僕らが人間である限り、続く想いだろう――。  目の前に大切な人がいて、喜怒哀楽のフルコースを重ねながら会話をする日々。大切な人の笑顔。大切な人のぬくもり、香り。  それらが日常の延長戦にあり、奇跡でもないと思っていた自分を殴ってやりたい。  それら全ては、泣きたくなるほどの奇跡の結晶だったのだ――。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!