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「ごめんなさい、言い訳はしないわ。遅刻は遅刻だもの」
『私』は笑みを浮かべたまま、言葉だけは真摯に謝る。
それに『私』がさらに眉をしかめた。
そんな10年前の『私』に向かって10年後の『私』は娘を慈しむような目を向ける。
「でも、それだけでカリカリしてちゃ、人生楽しめないわよ?」
「は? 遅刻した上に言い訳するつもりですか!?」
「いいえ、私の経験談」
そう答える『私』の表情に、いぶかしげに『私』が眉をひそめる。
昔の『私』でも分かったのだろう。
『私』の笑みに、何かやるせないものが混じったことに。
「そうやって私が取りこぼしてしまったものを、あなたには取りこぼしてほしくないのよね」
その言葉に、『私』は少し面食らい、そしてちょっと恐れを抱いたようだった。
そんな過去の『私』に未来の『私』は微笑ましいものを見るような視線を向ける。
「でも、あなたのおかげで思い出せたこともあったわ、ありがとう」
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