約束の箱

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――十年前、僕らはこの桜の木の下にタイムカプセルを埋めた。 今日六月二十日にそれを開ける約束をしている。 この日を僕はずっと待ち続けていた。 彼が書いた手紙の内容を知らないから。 なんて書いてあるんだろうと気になって仕方がない。 十年ぶりに彼に会えるだけでも嬉しいけれど。 今どんな風に育って、どんな場所に住んでいるのか。 僕達は今十八歳。 声変わりして、体もたくましくなっていて、一目では誰かわからないかもしれない。 彼はもう約束を忘れているかもしれない。 忘れていたら……寂しいな。 当たり前だけれど桜はもう散っている。 なんでこんな日に約束したのだろうと今になって思った。 でも木漏れ日が綺麗でそんな気持ちは無くなる。 瞬間、誰かが歩いてくる音がした。 彼が来たのかもしれないと思い目を向ける。 目線の先には、中学生くらいの少女がたっていた。 違う人だ……なんでこんな所に来たんだろう。 違ったことが悲しくなって、僕は視線を下に落とした。 「十年前タイムカプセルを埋めた人ですか?」 いきなりそんな言葉を投げかけられる。 はい、と驚いて答えてしまった。 「私はあなたが待つであろう人の妹です」 妹……僕は疑問に思う。 なんで彼の妹が来るのだろうと。 「なんで君? お兄さんは?」 問いかけると、少女の顔が曇った。 「兄は、一年前の今日亡くなりました」 何も反応出来なかった。 彼が亡くなった? 嘘だ……そんなの信じたくない。 ずっと会えるのを楽しみにしていたのに。 「だから、代わりに私が来ました。兄が最後に残した言葉が、今日ここへ行ってくれというものでしたから」 ……そう、なんだ。 詳しく事情を聞きたかったけれど、聞くべきではない気がして聞かないでおく。 「わ、分かった。彼がお願いしたんだね……じゃあ、掘り返そう?」 僕はスコップでカプセルを土から取り出した。 中には十年前と同じ、僕からと彼からの双方に向けた手紙。 やっと彼からの手紙が読める。 そしてこれは彼からの最初で最後の手紙なんだ。 内容を読んで僕は人生で一番泣いた。 転校した理由は病気の療養だったこと。 約束は今日まで生きられるためのおまじないだったこと。 僕はいつまでも親友だということ。 泣かないなんてことできなかった。 言ってくれなかったこと、逝ってしまったこと。 ひどい仕打ちだと思ってしまう。 でも親友だと言ってくれたことが、ただただ嬉しかった。 「兄は、幸せ者ですね」 僕はその言葉に、少しだけ救われた気がした。
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