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10年後の君へ聞いてから
「しまこさんだいすきです。ぼくのおよめさんになってください」
「んー、それは10年後の君へ聞いてからにしよう」
だがしやのみせばんをしているしまこさんはそういって、ぼくのてをやさしくにぎってくれました。
このひをやくそくを、ぼくはぜったいにわすれません。
◇ ◇ ◇ ◇
「という訳で志真子さん結婚してくれますか?」
「……本当に聞きに来るなんて思わなかったよぉ」
駄菓子屋の志真子さんは、耳まで真っ赤にしてカウンターに突っ伏した。
なんか壮絶な奇声を上げたが、彼女のかわいさの前には関係なかった。
うむ。
10年前から変わらず志真子さんはかわいい。
とても3×歳とは思えないかわいさだ。
そんなかわいい志真子さんが涙目で顔を上げる。
泣いた顔もむっとした顔もかわいい。
なので、実質可愛さ2倍だ。
「しょーちゃん、こんなおばさんからかって何が楽しいの!? いいから高校生らしい青春しなよ!!」
「愛の前に年齢とか関係ないです」
「2倍離れてたら流石にあるよ!!」
「よく考えてください志真子さん。確かに今は2倍ですが、僕が20歳になるころ志真子さんはまだ30代。年々、差は縮まるんです」
「……なるほど」
って、そうじゃないよ、と、志真子さん。
お会計する台をバーンしてまた涙目だ。
お勘定はできるのに、年齢の勘定はできない。
うぅん、ポンコツ可愛い。
「またそうやって私を騙す!!」
「けど、志真子さんへの想いは本物なんです!!」
「ひん!!」
「すみませんその反応を狙ってた感はあります!!」
「そういうとこ!!」
もーとため息。
志真子さんはそれっきり、そっぽを向く。
むぅ。
まだ結婚できないのに結婚しようなんて失礼だったか。
僕、高校生だもんな。
「やめてよ。小さい頃から可愛がって、勘違いさせた私も悪いけどさ」
「勘違いじゃない!!」
「もう、お姉さんを少しは立て――」
ようやくこっちを見てくれた彼女が、再び視線を逸らさないように、僕はずいと詰め寄るとその手を握る。
空いている彼女の左手の薬指に自分の小指を絡めて、僕は言う。
「流石に十年後の僕に聞くのはまずいと思うんです」
「……まぁ」
「三年後の僕に聞いてこの気持ちが変わらなければ、結婚を前提にお付き合いしてくれますか?」
「……勝手にしなよぉ」
猫みたいに拗ねる志真子さん。
けど、耳の先まで真っ赤にした僕のかわいいお姉さんは、ぎゅっと薬指をしめつけてくるのだった。
3年後も、10年後も、この人を絶対に幸せにしろよ、僕。
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