読まずに食べて

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読まずに食べて

――10年前を知る、僕から君へ。  過去に手紙を出せると聞いて、さっそく書いてみることにしました。  きっかり10年なのか分からないから、もしかしたら手遅れかもしれないけど。〝あの人〟に少しでも憎しみ以外の感情があるのなら、今すぐ傘を持って駅へ走って。  今の僕は、すごく後悔してる。  だから、今の僕としては君に走ってほしい。それで間に合わなくても、できることをしての結果なのだから、この時間の僕は救われるよ。  でも、もしこの手紙が届くのが6月20日の18時をすぎていたら、この先は読まずに燃やすこと。どんなにあがこうと間に合わないのに、これから起きることなんて知らないほうがいい。どういう結果がやって来ようと、君は未来の僕を責めればそれでいい。それで少しは気が晴れることを祈っているよ。 ――10年後を生きる貴方へ。  未来に手紙を送れると聞いたので、返信期限が切れる前に書くことにしました。といっても、手紙をくれた貴方に届くかどうかは分からないと配達人は言っているけれど。  結論からいうと、私は後悔しています。  どうして手紙を書いたのですか? 助けてなんてほしくなかった。放っておいてくれたら、きっと私は貴方のために死ねたのでしょう。貴方も、私のために死ぬことなんてなかったはず。  ですが、この一ヶ月。手紙のことがずっと引っかかっていたのです。  〝 貴 方 〟 は い っ た い 誰 で す か ?  言葉の選び方はまだしも、10年経ったからといって、そんなにも筆のクセが変わるでしょうか。貴方の字に、あの子は居ません。  どうして私を救うことを選んだのですか。こんな便利な道具があるのなら、私ではなく、どうかあの子を救ってください。さようなら。 ――10年前の私へ。  どうしてこんなものを作ってしまったんだ。お前が未来を伝えてしまったせいで、ここには誰も居なくなってしまった。  お前はこれから、返信の手紙を読み終えるたび「どうして上手くいかないのか」と嘆くだろう。過去への干渉をなかったことにするために、さらに過去へ干渉し、それでもダメで繰り返すんだ。  どうして私だけを残してみんな消えていったのか分からない。どうして私だけが変わらずのうのうと生きてる? ほんの出来心で未来を教えるのではなかった。いっそ童謡のように、読まずに食べてくれたらよかったのに。 〔読まずに食べて/了〕
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