TF:紫堂空也(幼少期)

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TF:紫堂空也(幼少期)

 僕が生まれたのは由緒正しき名家。小さな頃から厳しい教育を受けている僕は、基本マナー、教養、知識、どれも普通の大人と対等に並べるくらい持っている。  しかし、何故だかわからなかったけど、どうしてもそれを発揮できなかった。  ある日、紫堂財閥のお屋敷でパーティーがあるということで、僕も連れて行ってもらうことにした。  ※ただし、ここでは、紫堂空也のバックグラウンドには触れないでおこう。あくまでも僕の目から見た紫堂空也の姿のみに留めておく。  紫堂家と春日家とは古い付き合いで紫堂家も由緒正しき名家だった。訪れたパーティもとても華やかで豪勢だった。  そして僕はいつものように大人たちに交じって知識や教養の話をした。だけど、いつもそうだ。大人達はいつのまにかつまらなさそうに他に用事を作っては僕を離れていく。  僕にはその理由がわからなかった。マナーだって悪いわけではない、知識や教養もここにいる人たちより上かもしれない、なのに何故?  そうやってまたため息をついていると、少し先で楽しそうな声が聞こえてきた。  目を向けると、そこにはいつも僕と文学について話す佐賀家のおじさんと、金髪の巻き毛の小さな子供が楽しそうに話していた。  一瞬その子は女の子かと思ったけど、服装が男の子のものだったので、多分男の子だと思う。  白い肌に、金色の巻き毛。まるでムリーリョの描く天使のような子供がそこで楽しそうにおじさんと笑っていた。僕はおじさんの楽しそうな笑顔をはじめて見て、驚いた。  僕と彼、何が違うんだろう。容姿? 確かに彼に比べて僕は純日本人で地味だ。  少し眺めていると、話は終わったらしく、その子が僕に近づいてきた。 「君、春日優哉? 僕、紫堂空也。よろしく」  にっこりと笑って紫堂空也は手を差し出した。  紫堂? …紫堂家の子供か。 「何故僕の名前を? 」 「利発そうで綺麗な子供と言えば、僕か、君だ、ここでは僕ではないので、君のこと」  …容姿に似合わず生意気な奴だな。僕はきっと空也を睨んだ。  すると空也は楽しそうに笑って僕に耳打ちした。 「何故君に誰も興味を示さないか、教えてやろうか? 」 「な、なんだと」 「まぁ、落ち着いて聞けよ。僕は君と仲良くなりたいと思ってるんだ。こんな退屈なところ、お互い相手がいた方がいいと思わない? 」  にこっと笑う空也に、一瞬何故か胸がざわめいた。 「…なんだよ」 「教えてやるから、うまく行けば君は僕の参謀になれよ。一番手より二番手だろ、君は」  …なんて小賢しい奴だ…どうせどうしようもない提案だろう、そう思って息をつくと、空也が言った。 「笑え」 「は? 」 「綺麗な顔してるんだ、笑えよ。武器にしろよ。知識や教養だけじゃつまらない」 「…まさか、そんなくだらない…」 「くだらないと思うなら試して見ろよ、ほら、来た」  そこへちょうど小太りで髭をはやした佐々木のおじさんがやってきた。 「こんにちは、佐々木さん、紫堂空也です。覚えてらっしゃいます? 」 「おお、空也くん、忘れるわけがないだろう、その天使の微笑み。おや、お友達かな? 」 「こんにちは。春日優哉です」  僕は空也の言った通り、にっこり笑って挨拶をしてみた。 「おお、これはこれは。春日家のご子息か。紫堂も春日もなんとまぁよい血を持っておるの。今度家でパーティを開く時は君たちも来てくれんかね」 「はい、おじさま、喜んで」 「ありがとうございます」  佐々木のおじさんは上機嫌で向こうの席へ行き、僕と空也のことを話していた。  僕は空也の方をちらっと見ると、ほらな、という顔をして空也が笑った。 「分かった。君の言う通りだ。君の相棒になろう」 「そうこなくっちゃ。よろしく、優哉」 「よろしく、空也」
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