TF:山田歩

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TF:山田歩

 僕たちが最上級生になり、新入生を迎えることになった時、理事長の方から甥っ子が入学することになったのでよろしく頼む、と直々に話があった。  山田希、歩の双子は見た目は可愛らしいが、どこか庶民臭さの抜けきれないちびっこたちだった。まさかこの騒がしい弟が、空也のお気に入りになるとは想像もしていなかった。 「こんにちはー。空也いますー?」  何に対しても物怖じしないというか、遠慮がないというか。山田歩は一般生徒が恐れ多くて近づけないというこの生徒会室のドアもなんの躊躇いもなく叩く。 「こんにちは、歩くん。空也は今運動部の大会のことで出かけてるよ」 「ほえー。いないんだぁ。そっかぁ」 「よかったら入ってお茶飲んでいく? クッキーあるよ」 「ほんと!? いいの!?」  少しも警戒心を持たないこの子供のどこを空也が気に入ったのか、僕にはちっとも理解できない。 「えへー。春日さんいい人ー」  美味しそうにクッキーをほおばる姿は、確かに可愛い。 「頂いても空也は食べないからね。助かるよ」  でもまぁ、空也が気に入ってるこの子が気にならないわけなんてない。 「歩くん甘いもの好きなんだ」 「うん、大好き!」 「じゃあまたいつでもおいでよ。たくさんあるから」 「まじでー!? やったぁ」  さて、こんなに簡単に餌付けできていいものか…。  たまには毛色の違ったおもちゃが欲しかったのか…だけど、空也のことだ、理事長の甥を遊び相手に選ぶほど無謀じゃないだろう。  まぁ、もう少し観察してみよう。退屈な毎日がこれで少しはましになるかもしれない。
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