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突然だが、私の旦那は口下手だ。
「風呂」「そろそろご飯か?」「悪い寝る」
聞き飽きたこの言葉を、言い回しを変えて述べると、旦那は疲れた身体を引きずるようにリビングを後にし、ベッドに入る。
やれやれ、どうしてこんな男と結婚してしまったのか。
学生時代、何気なくメールのやり取りをしていたら、「好きだ、付き合って欲しい」という突然の告白。
その後、なし崩し的に付き合って結婚して、10年という月日が経ったのだが、月日が経つにつれ私は何故、今の旦那と結婚したのか分からなくなってきた。
その後、夫の転勤が決まった。
名の知れた地方都市に転勤する為、私は旦那が仕事に行っている時、引っ越しの荷造りを毎日行っていた。
押し入れに無造作に詰め込まれた荷物を取り出し、「いる物」「いらない物」に分けていると、傷だらけのガラケーが出てきた。
旦那が学生時代に使っていたガラケーだ、見覚えがあった。
悪いとは思ったけど、充電コードも刺さった状態だったので、ちょっと充電をしてみて、旦那のガラケーのその中身を見てみる事にした。
『俺、ノゾミに付き合ってくれって、メールしてみようと思う』
旦那と男友達の「私への告白」についてやり取りを見つけた私は、そのメールの内容につい興味をそそられてしまう。
『定期的に「好き」って言っとかないと、多分お前嫌われるぞ』
「無理だよ、恥ずかしい(笑)」
おい、今と全く変わらないじゃないか。
あらかた、旦那と男友達のやり取りを見た後、荷造りの続きを再開させようと私は思ったのだが、次のメールで私はしばし固まった。
『簡単に「好き」って言えないから、そう言いたくなった時は、プリンでも彼女に買ってあげるよ』
はにかむような文体の、旦那のメール。
夕方、旦那が帰って来た。
相変わらず、口数は少ない。
しかし、その右手にはプリンが入った紙袋があった。
そういえば、今、思い返したら旦那は何かある度に、しつこくプリンを買ってきていた。
「あっ、カラメルソース入れてもらうの、忘れてた」
テーブルの上でプリンを取り出しながら、独りごちる旦那。
「足りないのは、カラメルソースだけじゃないでしょ」
私は口元を上げながら皮肉の一つを言うと、愛情のこもったプリンを旦那を見つめながら食べた。
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