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 佐藤真(マコト)は神社の参道を進みながら、五年前に行方知れずとなった父親、丈児(ジョウジ)との会話を思い出していた。  確か、中学一年生の時、この浅間神社に初詣に訪れた際に言われた台詞だ。  丈児は『Rock』と言う単語が口癖のミュージシャンだった。  ギターリストとしてリスペクトしている者も少なくない、カリスマ性のある男だが、そんな丈児が愛した場所が、丈児の生まれ故郷にある、この浅間神社だ。  あの日から七年と数ヶ月。マコトは、穏やかで人の良さそうな青年に成長した。  当時、東京に住んでいたマコトにとって、この地は父親の故郷に過ぎなかったが、母親のいないマコトは丈児の失踪と共に、一人暮らしをしていた祖母に引き取られた。つまり浅間神社は現在のマコトの地元。氏神神社である。  樹木に囲まれた境内は、少しばかり薄暗く、梅雨の合間の蒸し暑さとは無縁の、ひんやりとした空気に満ちていた。  ジャ……ジャリ……  参道に敷き占められた砂利を踏みしめる。  自身の足音が人気の無い境内に響く。  心地の良い静寂だった。  マコトは本殿で参拝を済ませると、本殿の裏手に足を向けた。  それほど広い神社では無いが、開けた空間には一メートル程の高さの自然石で出来た石柱があり、その背後は山に連なる森だった。
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