このことは 夫には内緒

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「あ、ちょっと!たっくん!」 ……行っちゃった。 私何か気に障ること言ったかしら。 デリカシー、って。たっくん難しい言葉知ってるなあ。 「ただいま。」 「あ、おかえりなさいパパ。」 出張中だったカイが帰ってきた。 「草むしりしてたのか?」 「うん、早めにやっつけないとね。」 ゴールデンウィークだというのに中々仕事休めないカイ。目の下にはうっすら隈が出来てる。コーヒー色に近い金髪はこころなし艶がない。 「お疲れ様。お風呂入る?私もここ片付けたら中に入るわ。」 「慌てなくていいよ。それより何かあったのか?」 え?なんで? カイの手が私の頬に触れる。ひんやりして気持ちいい。 「さっちゃんはすぐ顔に出るからなあ。子供の頃からちっとも変わらんね。」 彼の手から逃れるべく後ずさりする。逃がしてくれるはずもないんだけど。 実はカイと私も幼馴染だ。 私が六歳の時に両親が離婚。その後、母は私を祖母の家に預けて単身都会に出た。 祖母しか知る人のいない土地に一人ぼっち。小さな町だから家の事情は筒抜け。学校でも友達が出来なくて毎日泣いてばかりいた。 そんなある日、カイが私に声を掛けてくれた。 頼りになる金髪のお兄ちゃんはいつしか気になる人になり、気が付けば恋をしていて……恋? え?え? もしかして私、盛大に勘違い? 「あーーーー!やってまったーーーー!」 「え?」 「ど、どうしよう。カイ。私たっくんにすっごいひどいこと言ってまった。」 たっくんが言ってた『好き』は恋。私の言った『好き』は親愛。同じ好きでもそれは似てるようで違う。いいえ、全く違う。 私としたことが、なんて勘違い。なんておバカなの私。自分が恥ずかしい。 「ちょ、何やってるのさ」 いきなりカイに手を掴まれてハッとする。カラスノエンドウを握りしめたまま、手を口元に持っていってしまった。 「動揺すると爪を噛む癖治らんな、さっちゃん。」
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