このことは 夫には内緒

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そう言って差し出した左手の薬指には大きなシロツメクサが。 「こんにゃくゆびわなのー。」 こ、こんにゃくですか。 「ぶふぉ!」 「やだ、カイ吹き出さないでよ。」 「すまん……そっかあ。タバサに婚約者が出来たのかあ。」 カイ、何喜んでるの。 「にいちゃにもみせてこよーっと。」 デッキに靴を放り出して家の中に消えていくタバサ。目で追いかけている私にカイが囁いた。 「どうやらうちの男どもはそろって早熟らしいな。」 ええ、そうかもね。その辺りはどっちも私には似なかったみたい。 さてそろそろ家に入ろう。カイのお風呂の支度もしないと。 だけどまずはこのエンドウさんの始末だ。この際だから今毟ったヤツの実も混ぜようかな。 「小さい恋人、って言うらしいぞ。」 「え?」 振り返った先でカイがスマホを口元に当てて笑ってる。 「カラスノエンドウの花言葉。花が同じところから二つ出てるだろ?それが所以なんだと。」 本当なの? よくよく手の中の花を見ると……確かに出てる。エンドウがツインズみたいにぶら下がっているのもある。 「調理法も調べた。久しぶりに二人でご飯作ろまい。とりあえずシャワー浴びるわ。」 カイが大きな背中を私に向けて玄関に向かう。つい、口元が緩む。 やっぱりカイは頼りになるなあ。 風がふわりとカイの髪を揺らした。 大分黒くなっているとはいえやっぱり金髪。お日様を浴びてきらきらと煌く。 体は大きくなったけど、やっぱりカイはあの頃のカイのままだ。 いまでも優しくて頼りになって私を包んでくれて。 手の中のカラスノエンドウの花。背中合わせにピンクの花を咲かせるそれが、私とカイの姿と重なる。 あのね、カイ。 私ね。 あなたがあの頃と変わらず、いいえあの頃よりももっと。 もっともっとずっとずうっと。 あなたが大好き。 このことは 夫には内緒。 完
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