かわらないもの

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 深夜零時、時刻表にない夜色の電車に乗ると十年後の自分に会える。そんな都市伝説を思い出したのは腕時計を見たからだろうか。  終電の時刻はとっくに過ぎている。俺はシートに腰掛けたままわずかに身を乗り出し車内を見回した。車両の窓に沿って並ぶ無人の座席はどこか現実味がなく、探しても路線図や行き先の案内表示はない。  おかしさに乗務員室へ向かおうとすれば、よく知る口調に呼び止められた。 「おい、どこへ行くんだよ」  先ほどまで誰もいなかった正面の座席に一人の男性が座っている。男性は十年後の俺だと話し、生年月日や勤務先、誰も知るはずのない元カノとの事件を暴露した。信じられないが彼は「未来から来た」とうそぶくには十分な情報を持っている。  俺は座席に背中を預けると大きく息を吐いた。男性が本当に未来の俺だとしても、実は物好きなストーカーだとしても、毎日が苦しい俺にはどうでも良いことだ。  上司からは毎日怒られ、部下には完全にナメられている。帰宅をすれば妻は寝た後で、冷めた夕食をレンジで温め直すのに慣れてしまった。  こんな毎日はもうごめんだ。俺は男性に投げやりな声をかける。 「お前が未来の俺だって言うなら、俺の未来を良くしてみろよ」 「未来は簡単には変わらない。俺が言えるのは辛い状態がまだ数年続くってことだけさ」  
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