25人が本棚に入れています
本棚に追加
深夜零時、時刻表にない夜色の電車に乗ると十年後の自分に会える。そんな都市伝説を思い出したのは腕時計を見たからだろうか。
終電の時刻はとっくに過ぎている。俺はシートに腰掛けたままわずかに身を乗り出し車内を見回した。車両の窓に沿って並ぶ無人の座席はどこか現実味がなく、探しても路線図や行き先の案内表示はない。
おかしさに乗務員室へ向かおうとすれば、よく知る口調に呼び止められた。
「おい、どこへ行くんだよ」
先ほどまで誰もいなかった正面の座席に一人の男性が座っている。男性は十年後の俺だと話し、生年月日や勤務先、誰も知るはずのない元カノとの事件を暴露した。信じられないが彼は「未来から来た」とうそぶくには十分な情報を持っている。
俺は座席に背中を預けると大きく息を吐いた。男性が本当に未来の俺だとしても、実は物好きなストーカーだとしても、毎日が苦しい俺にはどうでも良いことだ。
上司からは毎日怒られ、部下には完全にナメられている。帰宅をすれば妻は寝た後で、冷めた夕食をレンジで温め直すのに慣れてしまった。
こんな毎日はもうごめんだ。俺は男性に投げやりな声をかける。
「お前が未来の俺だって言うなら、俺の未来を良くしてみろよ」
「未来は簡単には変わらない。俺が言えるのは辛い状態がまだ数年続くってことだけさ」
最初のコメントを投稿しよう!