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2XXX年
『ん?』
他惑星探索機関・第五十五部門所属研究員の僕は、その日、奇妙なものを見つけた。
立ち止まって、しげしげと見つめる。
どうやらそれは、この惑星の”手紙”のようなものに見えた。
『どうした?』
先を行く上司が、通信機を使って呼びかけてくる。
『すみません。すぐ。』
僕は追いかけようとして、立ち止まった。
(一応、スキャンしとこ。)
探査服に内蔵されたスキャン機能を起動して、ものの数秒でそれを読み込む。
あとはAIに解析してもらおう。
僕の所属する他惑星探索機関は、名前の通り、僕らの住む惑星とは異なる惑星を探索する機関だ。
その機関が55番目に見つけた惑星が、今、僕らが調査に赴いているこの惑星だ。
ここは、なんでも10年前、生命体が完全に死滅したらしい。
だから残っているのは、生活していた建物や元々あった地形。それと訳の分からない機械や現在AIに解読させている文書だけ。
僕らがいるのは、一番文明が栄えた中心都市だったようだが、ゴーストタウン化しており、不気味な静けさが辺り一帯を支配していた。
けれど、僕はむしろワクワクしていた。
ここでは、僕の知らない文明が存在した。僕の知らない文字体系が確立されて、僕の知らない人々が暮らし、僕の知らない歴史を紡いでいた。
僕は、そうした僕の領域の外にある物事を考えることが好きだった。それを知ることが好きだった。それに想いを馳せることが好きだった。
故に、この仕事を選び、なるべく僕の知らない惑星を調べたいと、入所時に配属希望を出し、晴れて、この第五十五部門に配属されたのだ。
『おーい!』
上司からの呼びかけが探査服の中で反響していた。
『あっ……すいません、どうかしましたか?』
『ここらで休憩にしようぜ。気をつけろよ、お前。ここは俺らの住んでいる場所と違うんだぞ?ぼーっとしてっと、何かに襲われたりしてな。』
あ、でもここは生命体が死滅してんのか、ガハハ!と僕の上司は豪快に笑った。これでもこの仕事一筋25年の年季の入ったベテランだ。
『解析結果が出ました。』
今度は無機質なAIの声。先の手紙の解析が終了したらしい。
僕はそれを読む。
10年後、探索しに来た君へ
ここは君の領域ではない。
そんなに好きなら領域外に出してあげよう。
次の瞬間、僕の身体はそのまま外に放り投げられていた。
そして悟った。
ああ、僕らの文明では”ここ”には辿りつけない。
僕は静かに何もない真っ暗闇を覗き込んでいた。
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