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「ふわぁー。…暇だな」
温かな木漏れ日が差す部屋で僕は息を吐くように呟く。
このご時世、外出も出来ず、僕は暇を持て余していた。
「…掃除でもするか」
ここ数年、忙しくて細かい部分までは掃除できていなかったのもあり、机の中やソファーの下にはホコリや、長年使ってない物などが溜まっていた。
中には高校時代の教科書や、大学卒業の時に買った財布なんかも出てきた。
「なんか、面白いもんでも眠ってないかな」
そう言いながら僕は最後の場所である、タンスを開ける。
上の方には最近よく着てる服が並べられていたが、奥になるにつれて懐かしい気持ちになるような服ばかりになっていく。
「さすがにタンスには服しかないか」
そう言って最後の服を手にした時、ひらひらと何かが落ちた。
それはよくある茶封筒だった。
封筒には、『10年後の自分へ。 2010年の自分より』と書かれている。
10年前といえば、大学を卒業して本格的に俳優を目指し始めた頃だ。
あの頃はお金も無くて大変だったな…。
でも、一体何を入れたんだっけ?
ビックリするほど全然記憶がない。
疑問感とともに僕は封を開ける。
そこには一枚の手紙が入っていた。
『10年後の自分へ。
元気ですか?俳優の仕事は続けていますか?それとも別の仕事をしていますか?
何にせよ、10年前に苦しかったことは忘れないで下さい。それを忘れなければ、なんとかなるから』
「…めっちゃ適当じゃん」
シンプルにそう思った。
なんとかなるってさ…。
自然と口角が上がっていく。
このご時世、ネガティブな話ばかりで笑うことも少なくなってたけど、これはこれで手紙の意味があったのかも。
「まぁ、初心を忘れずに頑張るさ」
10年前の事を思い浮かべながら、僕はそう口にした。
「…あれ、まだ何か入ってる」
封筒の底からもう一枚の紙を取り出す。
「…商品券?」
『10年前からの餞別だ』
そんなメモと共に入っていた。
生活苦しかったのに、こんな事してたのか…。
なんとなく、胸が熱くなる。
せっかくだし、何か買うか。
その商品券の期限がかなり前に切れていることに気付くのは、結構後になる。
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