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「俺だ」
後ろから声が聞こえたのでパッと振り返ると、そこには社長が立っていた。
「え、ここ社長の家!?ハウスキーパーって…私が?」
「お前以外に他に誰がいる?」
社長は私の隣に座ると脚を組んだ。相変わらず仕事OFFモードで上から目線で話しかけてくる。しかし、スラリとした長い脚を組む姿は悔しいけど格好良い。
ピリリリリ…
ピリリリリ…
珍しく私の携帯が鳴り始める。
「まさか、義雄?」
私は立ち上がり、鞄から慌てて携帯を取り出して着信を確認する。しかし、着信は義雄ではなく私の住むアパートの大家さんからだった。
何だろう?
取り敢えず着信に出てみる。
「もしもし?」
切羽詰まったように話す大家さんの話を私は黙って聞く。電話が終わると私は携帯をその場に落とし、私自身も呆然としたままその場に崩れるように座り込んだ。
「どうした?」
様子のおかしい私を見て社長が声をかけるが、その声は私の耳に届かない。高瀬さんも不思議そうに私を見ている。
「テ、テレビつけても…いいですか?」
私はか細い声でお願いした。状況は分からないが私の只ならぬ様子に何かを察し、社長はリモコンを取り部屋にあるテレビをつけてくれた。
「何を見るんだ?」
「ニュース…をお願い…します」
大画面テレビのチャンネルをニュース番組に合わせる。
『…以上、火事の現場からお届けしました。続いてのニュースです』
「あれ?今の火事の現場って、水沢さんのアパートじゃ…?」
高瀬さんの問いかけに私はコクリと頷いた。そう、さっきの大家さんからの電話はアパートで火災が発生したからと安否確認の電話だった。
今現場は、警察と消防隊とテレビ局のカメラマン達で大変らしい。火元は私の隣の部屋で幸いにも怪我人はなし。
ただ私の部屋は無残にも焼け落ちてしまい、現状ではとても住める状態ではないという。
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