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「社長の事よろしくお願いしますね」
「はい、頑張ります」
社長がいなくなると高瀬さんがこっそりと言ってきたので、私も小さな声で返事した。今日起きた不幸な出来事を忘れるくらいがむしゃらに働こう…そう思った。
高瀬さんと話をしていると、社長が部屋から戻ってきた。そして一枚の紙を渡された。また借用書かな?と私は恐る恐る紙を受けとる。
「雇用契約書だ。問題なければサインしろ」
社長はそう言ってテーブルの上にボールペンを置く。ちゃんと契約書を準備してくれだんだ…私は渡された契約書に目を通す。
「…ん?」
目をこすりもう一度契約書をじぃっと見直す。
「あ、あの…社長…これ」
「何だ、給料に不満でもあるのか?」
「そうじゃなくて…ココ」
給料には何の問題もない。むしろこんなに頂いて良いのかってくらいだ。私は契約書に書かれている気になる一文に指を指す。
『住み込み』
何度見直しても住み込みで勤務すると書かれている。でもまさか…
「住み込みで働くのが条件だ。嫌なら仕事を断ってもいいぞ?」
「いえ、住み込みで働かせて下さい。お願いします」
今日何度目だろう。私はまた涙がでそうになる。でもこれは歓喜の涙。
恐らく行くあてのない私を社長は拾ってくれた。社長のさりげない優しさが身にしみる。私は少し手を震わせながら契約書にサインをした。
「これで契約成立だな」
社長はサインした契約書を手に取り、軽く笑みを浮かべる。
「ついて来い」
「はい」
社長はさっきから出入りしている部屋の一つ部屋の前で止まる。そしてドアを開けた。
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