10年経っても許されない

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10年経っても許されない

“この10年間、どうだった? お前は俺の愛した女を殺したんだ。 絶対に許しはしない” 郵便受けに入っていた封筒の中の手紙に、そう書かれていた。 歪んだ文字は紙が破けそうな程に力を感じ、憎悪に満ちている。 一人狭いアパートにいるのが怖かった。  そこで携帯を取り出したのは、自然なことだっただろう。 「ちょっと、話を聞いてほしい。 ざんげ、みたいなものだ」 「僕には好きな人がいた。 遠い存在、隣には既に相手がいて、見ていることしかできなかった」 「でもいつしか想いは膨らんで、我慢できなくなった。 計画し、さらって、監禁した。 後悔なんてなかった。 そうするのが、一番いいと僕は思ったから」 「そんなことをして、彼女は嫌がらなかったのかって? はは、どうだったんだろう。 だけど、そんなのは関係ないよ。 いずれはその顔が、笑顔に変わると信じていたから」 「不自由がないようにしたよ。 もちろん、逃げられないよう首輪はしたけど。 まぁ、そんなことは大した問題ではない。 僕と彼女が、密室で二人きり。 それだけが重要だろ?」 「その彼氏が手紙を・・・? そうかもしれない。 だけど、僕が監禁したっていうのは誰にもバレていないし」 「行方不明、なのかな。 え? 生きているのかって? いや・・・」 思い出したくなかった。 いや、ずっと忘れていなかった。 鏡に映る僕の顔は、酷く歪んで見えた。 「二人だけの時間は永遠とも思えたよ。 彼女の全てが僕のもの。 ただそれも、長くは続かなかった」 「いや、殺してはないよ。 だって僕は、彼女の全てが好きだったから。 もちろん、生きている彼女のね。 涙も唾液も尿も、全てが僕のエネルギーだったんだ。   死ねばただの、腐りゆく有機物でしかない」 「異常者? そうかもね。 僕はとっくに壊れていたのかもしれない」 「それで、何だっけ? そうそう。 彼女、死んでしまったんだ。 僕が彼女の必要なものを買ってあげようと出かけている間に、首を切って。   まるで満開に咲く薔薇のようだったなぁって、綺麗で美しいなって。 でも、気付いてしまった。 鮮血がどす黒く変色しているのを見て、あぁ、終わったんだなって」 思い出して、全てを悟った。 ―――僕自身が、手紙を書いたんだ。  「愛する人を殺したのを一番許せなかったのは、僕自身だった」 ―――今から君のもとへ逝くよ。 その日、鏡に頭を打ち付けて死んだ男と借金の督促状、契約の切れた携帯に白骨化した希少な猫の亡骸が発見された。
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