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僕は十年前に書いた僕の手紙を読んでいる。
その手紙はいま背後にいる悪魔が持ってきた。
「これで三つ目の願いも果たし、貴様の魂を貰う」
そう十年前、三つの願い事を叶える代わりに、魂を売る契約を悪魔と交わしたんだ。
「まぁ、あわてるなよ。僕は本当に感謝してるんだ」
十年前の手紙を読みながら微笑んだ。
「そうだ、貴様は感謝しなければいけない。俺の慈悲深さにな、グェッヘッヘッへ」
悪魔はじゅるりとヨダレを吸いあげてニヤついている。
「そうじゃなくてさ。妹の難病を治してくれた」
「そうだ。それは一つ目の願いだ」
「うん。おかげで妹は元気だ。元気すぎるくらいだけどね、はは」
「それは良かった。二つ目は、お前の両親の仲を取り持つことだったな」
「ああ。まだ十歳の僕が見ても、うちの両親は離婚寸前だった。でも父さんの仕事が上手くいって家族が今も幸せなのは、本当に悪魔のおかげなんだ。感謝してるよ。ありがとう」
僕は机に向かってペンを走らせる。
「礼には及ばない。そして最後の願いを聞き入れて今日、貴様が書いた十年前の手紙を、届けるという役も果たした」
「うん。そう。本当に、僕が十年前書いた手紙を、僕へ届ける役を約束どおり果たしてくれている」
トントントンと新しい封筒に便箋を入れ、封をする。
「ついにこの日を迎えるのだ。待ち遠しかった。ずっと楽しみにしていた。さぁ。契約に基づき、貴様の魂をいただくとする。グヘヘェ」
今にも飛びかかろうと両手を広げた悪魔の目の前に、僕は一通の手紙を差し出す。
「じゃ。また十年後。よろしく」
「あ?」
「ん?」
『十年後の僕へ』と書かれた手紙を、悪魔はしげしげと見つめている。
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