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人生で最悪の日だ。
順調だった人生の歯車が狂っていった。
そんな時に10年後の自分に会えるバーがあるという噂を聞いた。
胡散臭い話だが、藁をも掴む気持ちでバーに向かった。
薄暗い店内には客は少なかった。
バーテンダーに噂について聞いた。
「真実はどうなのかは私にはわかりませんが、ゆっくり飲んでいってください。」
「そうですか、ありがとうございます。」
そう言って奥の席を案内してもらったが、正直お酒を飲む気になんてなれなかった。
経営している会社は倒産寸前である。お金は借りられるところから借り、もう打つ手がないのだ。
しかし、バーに来た手前、飲まないわけにはいかず一杯注文をする。
店内に着いてから長い時間がたつが現れない。
一杯だけのつもりが、もう一杯もう一杯と注文をしてしまった。
「待ち人はきましたか?」気づくと離れた席にもう一人お客がいたようだ。
どうやら彼も、誰かを待っているようだ。
「私は何時間も待ってますが来てくれません。来るかもわかりません。」
私は堰を切ったように経緯を話した。
「そうだったんですね、あなたは未来の自分から見捨てられたんですね、かわいそうに。
私だったら、こんなに困っている状況だったら絶対行きますよ。」
「私はこのままでは会社も潰れてしまう、家族もろとも路頭に迷ってしまう。
ぼくは…どうしたらいいのか」ぼくは声をからしながら言った。
「所詮、未来の自分になんて頼れない、今の自分でどうにかするしかないんですよ。
私は未来の自分に期待しません。あなたはどうしますか?」
そう言って、彼は冷たい水が入ったグラスを差しだした。
会社や家庭を守れるのは自分しかいない。
まだできることはあるんじゃないか。
そう思ったら、ここでお酒を飲んでいる場合ではない。
「ありがとうございます。私も目が覚めました。
今を変えられるのは今の自分しかいませんよね。」
冷たい水を一気に飲み干し店を後にした。
「名のらなくてよかったんですか?」バーテンダーは、空いたグラスを下げながら言った。
「未来のことを伝えたって、私は本気でやらないですよ。自分のことは自分が一番わかってますから。
だから10年前の自分も何も教えてくれなかったんですよ、きっと。」
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