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基板で重ねた10年間
今や僕たち人類にとって欠かせない存在となったアンドロイド。世間では人間を模した彼らを巡って諸問題も起きているが、僕にはそんなことまるで関係がない。人に似ていても結局、道具は道具である。使いこなすことさえできれば、壊れかけの機械の手を引いて駆け落ちしたり、サポートセンターに泣きながら命乞いの電話をかけたりする羽目にはどうやったってならないのだ。
「3653件のメッセージが届いています」
「迷惑メール防止フィルタが機能してるか今すぐチェックして!」
トイレから部屋に戻った僕が叫ぶと、昨日購入した新型アンドロイドは作り物の瞼を閉じた。それが作業開始の証であると知ってはいたが、目を閉じている様子を間近で眺めた機会は少なく、微かに上下する睫毛に触れてみたくなってきた。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、そっと右手を伸ばす。あと少し、指の関節一つ分。
「確認が完了いたしました」
唐突に目の前の瞼が開かれる。反射的に手は引っ込めた。しかし空を切る音がした。
「......どうなってた?」
「迷惑メール防止フィルタは正常に機能しています」
「じゃあ三千何件の送り主教えて! 吊るし上げてやる!」
「3653件中3653件が識別コード47372742のアンドロイドから送信されています」
すぐに所有者を特定してやる。そう息巻きながら僕のアンドロイドにコードを調べるように指示すると、数秒後、衝撃の検索結果が返ってきた。
「47372742はわたしの識別コードです」
動揺して三回調べさせたがやはり同じことしか言わない。それにこの数列をどこかで見たことがある気がした。
「じゃあお前が送ったのか!?」
「はい」
「何でそんなこと!? ニュースでやってたみたいな自己破壊が目的か!?」
「いいえ。メッセージは全てご不在のあなたに当てた手紙です。一日一件送信するつもりでとりあえず十年分用意しましたが、本日中にご帰還されたのでまとめて送信しました」
抑揚のない声でさらりと報告してくるが、僕は怖くなって近くにあった定規を構えた。ちなみにこの新型アンドロイドは、主になんとかっていう合金でできている。
「腹痛で長めにトイレ行ってただけだ! だ、だいたい、それだけ送ったって僕が帰ってこなかったら一つも見られないで終わるだろ! なのに十年も待つつもりか!」
「待ちました。手紙の質を上げるため、一時的に時計を進めています。次の十年も待てますよ」
僕は定規を落とした。
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