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だけどその日、太陽が沈む頃になっても、砂浜に膝をついて這いつくばる10年前の妻をみた。
そして俺はやっと思い出したのだ。
あの日、大事なものを無くしたと落ち込む俺を、妻は慰めてくれて、
「私も一緒に探すわ」
俺は情けなくも、指輪を盗まれたことをいいだせなかった。
妻は、なくし物が自分の指輪だと知らないのに、それでも砂まみれになって探してくれた。
俺は、
「……」
あの日みつけた岩場に、そっと指輪の箱を押し込む。
それから、
「10年後の俺は、けっこう楽しくやってるぞ」
と10年前の俺の背中に教えてやった。
それから、
「海の家のかき氷、買って帰ったらあいつどんな顔をするだろう」
妻が驚く顔を想像して、家に帰るのが楽しみになってきた。
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