けっこんしよう!

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10年前の今日、プロポーズされた。 保育園で。 相手は4歳。 「けっこんしよ!」 姪っ子のお迎えに来ていた私は小さな男の子を見下した。 彼の手には小さな白い花が握られている。 「ありがとうー。ごめんねー。 でも、私まだ16歳だから結婚できないの」 「じゃ、こんどでいいよ」 「いや、こんどもないよ」 「じゃ、ひかる石あげる」 「いや、いいよ。 ねぇ。けっこんって何か知ってるの?」 「しってるよ。おなまえいっしょになること」 「えらく、コアなとこついてきたなー」 彼は照れくさそうに笑っている。褒めてない。 「ところでママは?」 「えーっとね、ままは…おそら」 彼は真っ青な空を指差した。 そこで私ははっと思い出した。 そっか、この子のママはもう…… 彼はまた照れるようにそっぽを向いて、何かに耳を傾けている。 「あのね。ママがね、けっこんしていいよ。っていってるの」 「え、君のママが?」 「うん。 しょーちゃんのままはね。ずっとしょーちゃんのそばにいてね。おしえてくれるの。 だから、だいじょうぶなの」 私はそれを聞いたとたん涙が溢れてきた。 熱い涙がどんどん溢れてくる。 実はその時、私はしょうのない喧嘩でお母さんと気まずくなって姉の家に転がり込んでいた。 なのに、たった4歳でちゃんと生き方を決めている彼がいじらしく、愛しくて。 私がなんとも情けなかった。 帰ったらちゃんと謝ろう。 それからお母さんを大切にしようと思った。 「なかないで」 真っ青な空の下、彼は私の額にキスをして言った。 10年後。 私は今日、案の定彼とは違う人と結婚する。 「ママ」 私は名前を呼ばれて振り返りると、学生服を来た男の子が後ろに立っていた。 「ドレス似合ってるよ」 「ありがとう。 あのね、しょーちゃん。 ほんとに私がママでいいの?」  しょーちゃんは笑って「うん」と言った。 「僕ね。小さい頃、ママにプロポーズしたでしょ? あれは、パパと結婚してほしかったから。 あの頃、死んだママはいつも僕の側で色んなことを囁いてくれた。 それで、あの日この人が大人になったらママになるよ。って教えてくれたんだ。 だから、僕は今でもいいじゃん。と思ってパパのかわりに先にプロポーズしたんだ」 しょーちゃんは得意げに、照れ臭そうに笑っている。 「気が早いよ」 「だって、僕も好きだったからね」 私はまた10年前と同じように涙が溢れた。 「泣かないで。 ママ、結婚おめでとう」 真っ青な空の下、彼は再び私の額にキスして言った。
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