鉛筆で書かれた手紙

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「美紀、手紙来てたわよ」  母から受け取った封筒には鉛筆で大きく、うちの住所と私の名前が書いてあった。  送り主も私の名前になってる。 「これ……何だっけ」 「ふふふ。乱暴な字ね。これあなたの小学生の時の字じゃない」 「ああっ、二分の一成人式の時の!」  懐かしさにこみ上げてくるものを必死で押さえながら、自分の部屋へ駆け込んだ。  封筒の中から手紙を取り出すと、そこには私の筆跡ではない文字が並んでいる。 『十年後のミキヘ  えーっと、元気ですか?  おれは山田翔太だけど、おれのこと、おぼえてる? おぼえてるに決まってるよな。おれもミキのことちゃんとおぼえてる』  俺も覚えてるって断言しちゃってる。  翔太は小学校の時の同級生で、ちょうど四年生の頃はすごく仲が良かった。本当は十年後の自分に宛てて書くはずの手紙を、こっそりと交換して私は十年後の翔太に、翔太は十年後の私に向けて手紙を書いたんだった。 『十年たったらもう大人で、おれはたぶん大学生になっていると思う。医学部に入学してバリバリ勉強しているはずだ。ミキはケーキ屋さんになるためのしゅぎょうをしていると思う』  そうだった。あの頃はパティシエールになりたかったんだった。  けどだんだん夢も変わってきて、今は私も大学生なんだ。一生懸命に勉強して、翔太の目指してた地元の大学に通ってるよ。ずっと隣に居たかったから。 『ミキはかわいいから、きっとモテモテだけど、ちゃんとうわ気せずにおれと付き合ってると思う。でもおれははずかしくて言えないので、もしかしたらおれがミキのことを好きだって言ってないかもしれない』  あはは。全然可愛くないしモテなかったけど、翔太からは好きだって言ってもらったよ。何回も言ってもらった。 『だから代わりに十歳のおれが言っておく。ミキのことが好きだ。おれと結婚してください。  よろしくお願いします。山田翔太』  まさかのプロポーズだった。  翔太は十年たって、自分の気が変わるとは思わなかったんだろうか。  読み終わった手紙を丁寧に畳んで封筒に戻す。  手に持った封筒から視線を移せば、二十歳の誕生日に貰ったプレゼントが、私の指に光る。  彼はこの手紙に書いたことを覚えているだろうか。そして十年前に私の書いた手紙を見て、今頃どう思っているんだろうか。  私も十年前からずっと、翔太のことが好きだった。今でもそう。  明日も、これから先もずっと。  一緒に並んで歩こう。  ――了――
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