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歓声が悲鳴に変わり、溜め息で終わった8月。試合終了のサイレンを聞きながら、見上げた青空が眩しかった。
「終わったんだな……」
「栄斗、お疲れ」
大型バスのリアガラスの向こうに聖地が遠ざかる。隣席の星那は、そっと右手を差し出してきた。
「この10年、楽しかったよ。ありがとう」
「なんだよ、改まって」
照れ臭かったが、彼の指の長い大きな掌を握り返す。この掌から繰り出すフォークを武器に、県大会を余裕で勝ち抜いてきた。
「約束したのに……勝たせてやれなくて、ごめんな」
でも、星那の肩は限界だった。前日練習で違和感に気づいたが、「甲子園で1勝を」という彼の夢を叶えるため、監督にも隠し、2人だけの秘密にした。その判断が正しかったのか、今は分からない。
「お前が悪いんじゃないよ」
涼しい二重の下の瞳が赤い。同じ団地に住んでいた彼とは、リトルリーグから始めて、ずっとバッテリーを組んできた。雨の日も風の日も、猛暑の中でも、俺達は共に戦ってきた。
「お前は、この先も頑張れよ」
「ありがとう。お前も、あっちで頑張れな」
俺は大学でも野球を続ける予定だ。一方の星那は、アメリカの大学へ進む。やがてはスポーツトレーナーの資格を取って、指導者になる夢を抱いている。
「あのさ……栄斗、1つ約束してくれないか」
「いいよ」
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