切れない絆

1/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 歓声が悲鳴に変わり、溜め息で終わった8月。試合終了のサイレンを聞きながら、見上げた青空が眩しかった。 「終わったんだな……」 「栄斗(えいと)、お疲れ」  大型バスのリアガラスの向こうに聖地が遠ざかる。隣席の星那(せな)は、そっと右手を差し出してきた。 「この10年、楽しかったよ。ありがとう」 「なんだよ、改まって」  照れ臭かったが、彼の指の長い大きな掌を握り返す。この掌から繰り出すフォークを武器に、県大会を余裕で勝ち抜いてきた。 「約束したのに……勝たせてやれなくて、ごめんな」  でも、星那の肩は限界だった。前日練習で違和感に気づいたが、「甲子園で1勝を」という彼の夢を叶えるため、監督にも隠し、2人だけの秘密にした。その判断が正しかったのか、今は分からない。 「お前が悪いんじゃないよ」  涼しい二重の下の瞳が赤い。同じ団地に住んでいた彼とは、リトルリーグから始めて、ずっとバッテリーを組んできた。雨の日も風の日も、猛暑の中でも、俺達は共に戦ってきた。 「お前は、この先も頑張れよ」 「ありがとう。お前も、あっちで頑張れな」  俺は大学でも野球を続ける予定だ。一方の星那は、アメリカの大学へ進む。やがてはスポーツトレーナーの資格を取って、指導者になる夢を抱いている。 「あのさ……栄斗、1つ約束してくれないか」 「いいよ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!