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八歳の俺からの贈り物が、目の前で鎮座していた。
俺も無言で相対する。インドの高僧みたくむつかしい顔してにらめっこするも、落ち着かない。
壁の時計は23時59分30秒。あと30秒で俺は十八歳。僅か震える右手で、ハサミをつかむ。
紙製の白い箱。十年前のあの日、一八歳の誕生日に開けると決意したその箱は、タイムカプセルだなんてロマンチックなものではない。
上面には真っ赤な、車両通行止めみたいなやつに18の記号。つまりは、そういうことだ。十八歳になる瞬間、俺はその煩悩のおもちゃ箱を開けようとしていた。
箱は俺が買ったものではない。貰ったものではない。
拾ったのだ。八歳のときに。
俺は適当な性格で、昔のことは記憶喪失といっていいほど覚えていない。それでも、箱を拾ったときのことは今でもたまに思い出す。
廃墟みたいな部屋のなか、白い箱が俺の前で、子猫みたいにうずくまっていた。子供特有の怖い物見たさで、俺は箱に触れた。なぜか温かかった。恐らく俺は捨てた奴と入れ違いになって見つけたんだろう。
○に一八……当時の俺でも、意味は知っていた。下ネタはうんちくらいのお子ちゃまでも、そういうことには興味がある。はやる好奇心に昂ぶるなか、だが俺は開けなかった。十八禁――当然八歳が閲覧するのは違反である。変なところ真面目、というかビビりな俺は、十年後、一八歳の誕生日に開けよう、と決めた。
そして、今。
ついにこのときがきた。秒針は12。誕生日おめでとう、俺。
乱暴に箱を引き寄せ、ハサミでその腹を裂く。とめどなく溢れる桃色の邪念は脳内をびちゃびちゃにし、俺は発情期の馬みたいに荒い鼻息を噴く。
……だが。
中に入っていたのは、桃色雑誌でも、DVDでもなかった。
機械だった。不細工な小型UFOみたいな、奇怪な円盤。作動している。海底に住む生物のような複雑な管が幾本も飛び出し、頭の半球がぴかん! ぴかん! と不思議な光を発している。
結構まぶしい。頭がクラクラする。
呆気にとられしばらく思考が停止したが、俺はその胴の部分に一枚の紙がひっかかっているのを見つけた。
百年もたってそうな古い紙。読み上げてみる。
「一八歳にもなったら大人扱い、行政はなにもしてくれない。力もないのに。だが俺は十年前の俺に戻る、この機械で!」
その下には十八禁のマークが書かれていた。恐らくは、くたばれ一八歳、と言う意味で。
その筆跡は――俺と似ていた。
身長が、縮み始めた。
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