十年後の俺へ

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十年後の俺へ  今日、政治の改善点を綴った手紙を送りつけてやった。俺ってやっぱ賢い。本当は俺がトップになってやりたいけれど、まだその時じゃないだろうから、今は存分にあいつを使い込んでやろう。  そもそも、あいつがだらしないのがいけないんだ。寺の扱いが酷いと聞いたから、評価が下がるぞって忠告してやった。改元の件もずっと前から言っているのに、あいつはまるで動こうとしない。今すぐ費用を出せってんだ。  ところが自分の事となればすぐ欲に走りやがる。余計な役職ばっかり作って褒美を与えず地位を上げるだけ。その事で功績のある奴が俺に泣きついて困ったもんだ。ドケチ。その強欲の所為で、人々はあいつの事を「恥も外聞もない公方様」とか「悪御所」とか呼んでいるんだ。  俺への態度もなったもんじゃない。俺の所の女官にまで冷たく当たるんだ。あり得ないだろう。これから俺たちがあいつの支えになるだろうってのに、それが分からないのかねえ。  しかもだ、何か必要なら俺が用立ててやるって言ったのに、他の大名から馬を貰ってるって言うんだからおかしな話だぜ。こそこそ何やってんだか、気に食わねえよ。  大した罪のない奴から刀を取り上げたり、取り立てた税金を誤魔化したり、俺がトップだったらそんな事しないのに。  さて、十年後の俺は、どんな思いでこれを読んでいるんだろう。俺の勢いなら、もう天下は目前って所じゃないだろうか。  初めて俺が先陣切って勝ち取ったあの戦いを覚えているか。あの時の義元の顔と言ったらなかったな。首取られた時くらい、良い死に顔でいたいもんだぜ。  そうそう、今、十七も書いた意見書をあいつに送り付けたって言ったけど、義昭ももう終わりだな。すぐにでも幕府を潰せそうな勢いでぐらついてる。そろそろ倒しに行っても良い頃合いかもな。  家臣も大勢増えたよ。城も建てたいな。そうか、十年後の俺は、その建てた城でこれを読んでいるのか。天下を取って自分の城も建てて、きっと有意義に過ごしている事だろう。  家臣も従順だ。何せ俺が強いからな。その中でも特に使えるのが二人いる。  秀吉と光秀だ。  秀吉は発想力が抜群だし、光秀は真面目で何でもこなす。あいつらは絶対裏切らないだろう。だから何かあっても大丈夫なように、あの二人だけには信頼を置いて行こうと思ってる。  兎に角、十年後に俺が日本のてっぺんでこれを読んでいる事を祈って、今は着々と準備を進めていくよ。  一五七二年   織田信長
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